227 ドラマはいま視聴者側で起きている
過去を描くしかないのか?
見なくなった、あるいは最初から見なかったドラマについては省略。
見終えたドラマ、いまもまだ見ているドラマは次のとおり。
『95』、『天使の耳〜交通警察の夜』、『RoOT/ルート』、『滅相も無い』、『イップス』、『君が獣になる前に』、『季節のない街』、『光る君へ』、『アンチヒーロー』、『藤子・F・不二雄SF短編ドラマ 2』、『虎に翼』。『白暮のクロニクル』。
正直、それほどモチベーションの高まらないドラマもあるのだが、見ていてまだ飽きていないものは継続してしまう。
しかし、どのドラマも「打ち切り」になってもそれほど心は痛まない。「最後まで見せてよ!」と切望するほど熱中はしていない。
現代を舞台にしているドラマもあるものの、今回見ているドラマは、どれも過去の世界を中心にしているように感じている。『95』は1995年だし、『天使の耳〜交通警察の夜』はいまのようにドラレコが普及していない頃の話だ。ドラレコがあれば一発だろ、と思ってしまう。『RoOT/ルート』は現代風ながらも、「探偵事務所」そのものが、どうしたっていまな感じにならない。ただしドラレコなどテクノロジーはいまである。『滅相も無い』は、そもそも異次元なドラマ。『イップス』は現代なんだろうけど、篠原涼子が「古畑任三郎」をやりたがるので、とても懐かしい。『君が獣になる前に』と『白暮のクロニクル』は近未来というかこれももうひとつ別の世界の話に感じる。『季節のない街』は、季節も時代もない印象がある。そもそも原作は古い昭和の話で、舞台は仮説住宅だから、これで「いま」を感じるのは難しい。『光る君へ』は中世の話。『アンチヒーロー』こそバリバリの現代だろうと思うものの、主演の長谷川博己の人物造形や大量のセリフによって、必ずしも「いま」とは言い切れない。『藤子・F・不二雄SF短編ドラマ 2』は昭和である。『虎に翼』はもちろん、過去の話(昭和初期)である。
ネット配信、コンプラ、政府への配慮……
なぜ、いまのドラマでいまを感じないのか。自分でもよくわからないが、コロナ禍のせいではないだろうか。コロナ以後の世界は、コロナ以前とはまるで違う。それは「吉田類の酒場放浪記」で再放送を見ていて、とても感じるのだ。この番組は吉田類が酒場へ行く。ただそれだけのようでいながら、実は本来、最初の一杯は常連の飲んでいる酒で決めていた。コロナ禍では店を貸し切って吉田類ひとりなのでそんなことはできない。つまり「かんぱーい」とやるお約束は、客たちと同じ酒を飲むことで成立していた面もあったのだ。
もちろんコロナ明け後、酒場には客がいる。アクリル板も消えた。それでも、再放送のコロナ以前とは店の雰囲気はどこか違う。客との距離感が違う。さらにコンプラも含まれているに違いなく、かつては謎の美女がよくお酌をしてくれたのである。謎の美女は復活しない可能性が高い。
現代のコンプラやジェンダー感覚が、古い時代であるはずのドラマにも適応されていることに違和感を持つ人もいるようだ。
前季の話題作『不適切にもほどがある!』で多くの人にウケたのは現代ではなく過去の日本だった。スケバン、つっぱり、深夜番組といったアイテムがウケたのである。『泥濘の食卓』は私はその生臭さが気に入って大事に見ていてまだ最後の数話は置いてある。これはかろうじていまの時代を感じた。『闇バイト家族』はどことなく『 夜逃げ屋本舗 』を思わせるけれど、これもいまな感じはあって、まだ最後の数話を大事に保存している。見てしまうのが惜しいから。
もしかすると(邪推ってやつだけど)、いまの時代のドラマは、ネット配信を前提にしているから、「いま」にこだわりすぎると逆に古くささが際立つ可能性があって、そこをあまり尖らせないように注意しているのかもしれない。また、もしいまの時代をきれいに切り取ると、政権批判になるからそれも放送局としてはやりにくいテーマになってしまうだろう。
要するにドラマは「声なき声」をすくいあげる器でもあって欲しいわけで、その機能をネット配信と政府への配慮で失っているとすれば、ドラマがおもしろくなるはずもない。
つまり、いまドラマはドラマ制作側にはなく、現実の私たちの世界側にあるのだ。いま私たちが直面している日々は、これまでの日本人が誰も経験していないドラマなのである。だから、テレビドラマはそれほどおもしろくないのは仕方が無いことかもしれない。
もちろん、私自身が現実から目を背けるために、現実をあまりストレートに描かないドラマばかりを見てしまっているのかもしれない。見ていないドラマの中に、現実があるのかもしれない。
今季、一番おもしろかったのは『NHKスペシャル 未解決事件File.10下山事件』のドラマ部分だった。戦後にGHQおよびアメリカとどういう絆が出来たのか、その結果日本の主権はどうなったのか。いまもなお、あの頃の仕組みが続いているようで、背筋が寒くなるドラマだった。
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