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金星

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ピアス

イヤーカフスがほしいなと思っていて だけどびっくりするぐらいに似合わない ここのところ光の速さで成熟した 今朝も一番早く起きて 光のさすキッチンでコーヒーを淹れて 今朝は同居人が順番に起床する音を ここで集めているけれど つぎにどこにいるかなんてわからないでしょう 母親の横にいる小さな私になっても気づかないだろうし 老人ばかりで今日を迎えたとしても それがあの世なのか老人ホームなのかシェアハウスなのかなんて 気づかない シェアする「年齢制限40歳」はどんどん上がっていって

解放された夏の 柑橘の房は ひとり帰って来る 冬の山小屋に 井戸水はすべて汲まれたあと 全裸で刻みだす 乾いた時間 おかえり、と青色の深い階段 ひんやりと、足裏に馴染む円盤 視界に現れた水面に滑り込み、落ちたあと ここまでの案内を誰が教えてくれたのか? 名付けることを許したのはあなたでした 名前がなければ地図には記されない     彼女達は門を構築している     日暮れに紳士を労い     夜明けに可愛い声を送り出している     ひびのない柔和な記憶が水路を操る 君

代替

この世は明日で幕引きだというのに 誰かの人生に出会うということは 夢だったはずのわたしの時間が 一瞬のうちにすべての色を献じて 永遠を引き受けるということ

満月のちょっと前

スプーンで掬った群青色の湖面がなん億光年も続いて、そこからずっと ここにいるよ と私に言うあなたは5000年も昔の5年前にはこの世にいなかったのに 2000年くらい先できっと私の白く削れて山になった時間を拾う 同じ形の月の 何万回と繰り返された日と見分けがつかない一日はただ、今日だけの月にすっぽりと落ちて吸い込まれて すれ違った視線が明日に残る

まだ ご近所

火星と 半月をすぎたころの月の あいだの道筋 歩いて7分くらいの 2018年7月31日22時半頃 わたしが歩いて行かなくなった距離 月のほうを あなたにあげましょうか カーテンの奥の その奥の、カーテンの奥 幕の裏の 襞の合間の 光の消失したところ マグマと 穏やかさと、私のところに残った きみは湿ってすらいない 乾いてもいない ブラックホールに飲み込まれたブラックホールの 隙間の住人になったあなたが なくした色と音と弾力  わたしの、ぜんぶ

大人の恋心

星が走っている 新宿の天井の間を茶化して擦り抜けながら 鳩尾の地中500メートル 熱風に乗った湯気が喉まで上がって来て 私の錨になる 同じ齢 MちゃんとYちゃんの静寂は 覗き窓から見たら嵐 欲しいもの愛されたもの好きなもの労られたもの焦がれたもの 糸数本の掛け違いの面前で突風になる 風だった私は台風の目のなか 青い星屑に装飾されて 青い真綿でくくっと心臓の隅を締めつけられて 青いようなマントに抱きかかえられている 迷いと雑じり気がない空き地で それは3歳の私が知っていた

蟹座の満月

一度書いて、そのあと取り下げて、 「何も消すことはなかったな」と思い直したので、再投稿。 意地悪さと 残酷さと  茶目っ気の素性を現した手が  沿道中からかい続けて  差し色になって白い肌を飾る 宇宙3個分のわたしの苦難は あなたの前で霧散し 泉に変わる 父の前では矛と盾となった記憶を わたしを形作った時間を 地下で畳み 父であることの苦悩は 空を過って 目の前の 果てしなく遠い銀河 触れあわないようにして わたしはその瞬間 泉になる 自分に提供できないものの輪郭を知ら