解放された夏の 柑橘の房は
ひとり帰って来る 冬の山小屋に
井戸水はすべて汲まれたあと
全裸で刻みだす 乾いた時間

おかえり、と青色の深い階段
ひんやりと、足裏に馴染む円盤
視界に現れた水面に滑り込み、落ちたあと
ここまでの案内を誰が教えてくれたのか?
名付けることを許したのはあなたでした
名前がなければ地図には記されない

    彼女達は門を構築している
    日暮れに紳士を労い
    夜明けに可愛い声を送り出している
    ひびのない柔和な記憶が水路を操る

君の瞳はいつもそうだね
糾弾する空の声
まるで沈む釣竿だ
竿ではない!錨だ

とぐろを巻き始める
美しかった朝焼の頰
星々の間で重力を持てなかったのだと
慌てて回転する壺の中が女を腐らせる

追い返されてしまう 
あまりに澄んだ湖
歩幅を封に入れ忘れたという後悔
湖面の蛇口にあの人は気づかない

   彼女達を焦がれてはいけない
   未来に恋をしても今日にはならない
   引力に従った満開の果汁を
   あの、狭い道に 押し戻さなくてよい

あなたの世界への視線に覚えがあった
円周の大きな磁力がくれた、未知だった視界
亀裂に縁取られたメッセージを忘れさせる
見えることのない、縫い目のない抱擁



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