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思い出のカレー丼

若いころ働いていた会社の近くにお蕎麦屋さんがあった。そこによく会社の人と通っていた。働いていた会社はとにかく忙しくて、お昼ご飯なんだか夜ご飯なんだかわからない時間にボロボロの若者が来るもんだからたぶん女将さんは心配していたんだと思う。よく声をかけてくれたし、お会計の時に「はい、おつりの200円」って言って250円くれたりした。若い男の子がくるとお蕎麦を頼んだのにお蕎麦とフルサイズの親子丼が付いてきたりする。

そこは会社を出てほんの束の間の癒しの場所だった。小上がりがあるお店だったので足を伸ばして実家に帰ったようだった。会社からの電話が鳴って問題発生して大急ぎでカレー丼を食べて会社に戻ることもあった。その時も女将さんはあらあら…と心配そうにしてくれた。

一緒に行った同僚の携帯が鳴り、話をしながらそばを食べ、電話を切っても仕事の話だったり愚痴だったりが続いていて、仕事の忙しさとか疲れで余裕がなかった私は「ミオとご飯食べてると仕事してるみたい」と言ってけんかしたこともあった。余裕のなさはほんとに言っちゃいけないことを言ってしまう。その時も女将さんは心配そうだった。

たぶん、人生で初めての「行きつけのお店」がそこだったんだと思う。辛くて疲れて余裕が無かった会社時代の、数少ない良い思い出のひとつだった。でも会社を辞めるとき、少しでも早くその会社の近くから逃げたかったから挨拶には行けなかった。

その後、大将の体の調子が悪くなったとのことで店を閉めたと風の便りで聞いた。カレー丼美味しかったなあー。

もう18年も前のこと。


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