過去からもらった好奇心の種
近頃ワクワクしていないことに気づき、ハッとした。
ご時世的に外出も最低限に抑えている。自分自身、今のところはそうすることが納得する選択だからそうしているし、そもそも家で過ごすことが好きなのでそれなりに楽しくしているつもりだった。
でもやっぱり行動範囲が狭くなると変化に乏しい毎日に飽きてくるものなんだなと最近ひしひしと感じるようになってきた。好奇心をくすぐられることもあまりない。
友達とお茶する時間や、特別な目的無く立ち寄ってみる本屋さんや雑貨屋さんなどに行く時間って自分にとっての栄養的存在で、思っていた以上に大事だったみたいだ。今更ながら気づく。
そういえば社会人になりたての頃、会社帰りに駅から歩いて数分のところにある本屋さんに寄る時間がいい息抜きの時間になっていた。
電車が1時間に2本だったのもあって、乗ろうと思っていた時間の電車に乗り遅れることも。でも私には本屋さんがあるので問題なしといった感じだった。
真っ先に文庫本コーナーに向かう。ズラリと並んだ本を眺めているだけで落ち着く。
本棚の周りをぐるぐる歩き、タイトルや装丁にピンときたものを手に取る。裏表紙のあらすじを読む。最初と中程を少しだけ読む。気が合う感覚のような、心にカチッとはまる感じがしたらレジへ。というのがいつものパターンだった。
あー、そうだ。いつも本はそんな風に選んでいたんだった!
今はネットのレビューでの評判を見て選んでいることが殆どだということに気づく。
またあの自分の感覚を頼りに『今度はどんな世界を覗けるだろう』というワクワクする感じを味わいたくなった。
子供の頃に図書館で本を借りる時も、わからないからタイトルと表紙が自分好みかどうかを頼りにして選んでいた。
そうやって選んできた中で、私にとってとても印象的だった表紙の本がある。
小学生の時に学校の図書室で見つけて、何度も借りて読み返した一冊。二十代の中頃、急にその本のことを思い出した。
でもタイトルを思い出せないという始末。ネット検索で手がかりを掴めそうなワードで調べてみるも、ひっかからず…。あきらめてはまたふと思い出して検索してみて、あきらめて…というのを何年も繰り返していた。
あきらめが悪い性格の甲斐あってか、つい先日その本のタイトルを知ることができた。
タイトルがわかったので早速図書館へ。自分の手元に来たその本の表紙を見て『そうそう!これこれ!』と嬉しさがこみ上げてきた。
二十数年ぶりに読んでみたわけだけれど、驚くことが色々あった。
その本は1985年に出版された本で、時代背景やセリフなんかはその当時っぽい感じはするけど、価値観はすごく今っぽい。
この時代にこういう価値観の人を登場させる児童書があって、しかもそれを自分が何度も読んでいたということにビックリした。
物語の中でその登場人物は、やはり相当な変わり者扱いをされている。
たぶん小学生の私も『変わった人やなぁ』って思いながら読んでいたと思うし、変わってるから何でもできて、それがハッピーエンドに繋がったんやろなーみたいな軽い感じで読んでたことだろう。
でも今読んでみたら、その変わってるとされている価値観こそ、むしろ今の時代に必要な感覚で、『全部に共感できるわけじゃないけど、この人が一番真っ当なこと言ってる!』って思えた。
思い出の一冊なのに懐かしさより共感できる部分や新たな発見が多くて、最後までワクワクしながら読み進めていくことができた。
想像するに、小学生の私はこの物語のドタバタ劇感に面白さを感じて何度も読んでいたのだと思う。
でも何年探しても全く何の手がかりすら見つけられなかったのに、今のタイミングで見つけられたことと物語の内容に、あの頃の私が今の私に『これきっと面白いって思うと思うから読んでみて!』と渡してくれたみたいだと思った。
単純に『あー、懐かしかった!』という読後感を想像していたのが、思ってもみなかった驚きと不思議な気分に浸ることになった。
そんななんとも言えない不思議な気分から好奇心をくすぐられ、この物語の作者の他の本を読んでみたくなって図書館でさらに2冊借りて読んでみることにした。この2冊もまた、子供が読むとドタバタ劇だけど、結構大人向けだと思った。
これまでも大人になってから何度か児童書を読見返してみたりすることはあって、意外に大人なこと書いているのが面白いと思っていたけれど、今回のようなじんわりと思いを巡らせたくなる気持ちにもなれるのはなかなか新鮮だった。
そしたら会社帰りに買って読んでいた本は今読んだらどんな気持ちになるだろう…と思い、最近何冊か読み返している。
時代の空気感や自分自身の経験などから物語の受け取り方はこんなにも違ってくるんだという感覚を味わえることが楽しい。
そして、こうしてまた夢中になれそうなものを見つけられたことに、今少しワクワクしている。
早く心置きなく外出できる日々がくることを祈りつつ、とりあえず今はこの好奇心の種を育てることをせっかくだから楽しんでみようと思う。
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