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映画「断捨離パラダイス」を観て

どうも、整理収納アドバイザーのみつばちまぁやです。
「断捨離パラダイス」という映画を見てきました。
すごくいい映画だった(のに題材が題材なので誰にも見てもらえないような気がしてもったいない!)ので、1人でも多くの人に見てもらえればと思いシェアしたいと思います。

正直…全く期待していませんでした(ごめん)。たぶん、ゴミ屋敷を面白おかしく紹介するような内容なのかな~、と。
ところがどっこい。普段からゴミ屋敷と付き合いのある私が見ても「あぁぁ~、そう、そうなのよ…!よくぞそこを丁寧に描いてくれた…!」と唸らずにはいられない、とても有意義な内容ばかりだったのです。

■ゴミ屋敷の住人は、「だらしない人」なのか?

ゴミ屋敷と呼ばれる家に住む人の多くは、おそらく「だらしのない人」だと思われているでしょう。
確かにそういう人がいるのも事実です、が、真面目実直で仕事熱心な人もまた多数います。
「忙しすぎて」片付けられない人もいる。とある小さなきっかけで心の均衡を失った人が陥ることもある。
この映画の中には、「世間ではきちんとしているにもかかわらず部屋がゴミ屋敷になっている」人が多く出てきます。
そんな彼らがとあるきっかけで「断捨離パラダイス」という会社に掃除を申し込み、片付けを通して、何かが起きます。

■以下、盛大にネタバレします

内容は6人の人物による群像劇。
各々が「断捨離を必要とする理由」「断捨離を必要とするに至った背景」などが描かれています。
冒頭で「正直言って 全く期待していなかった」と書きましたが、見終わった後のとてつもない幸福感というか…もちろん「ハッピー♡ハッピー♪」な感じではないのですが、心がしっとり温かくなるような、「今日も1日元気に生きていける」って思えるような、そんな素敵な内容だったです。

そうそう。この映画の 憎いところに「多くを語らない」というものがあります。
映画館のスクリーンに映し出される圧倒的なゴミの山、それを見つめる人間の目。
「そこから多くのことを感じ取れ」という言わんばかりの言葉の少なさでした。
汚部屋のことをあまり知らない人にとってはもどかしい感じに映るのではないかと思います。ですがそこを考えさせることこそが、きっとこの映画の見どころなのだろうと私は(勝手に)感じました。

■1人目:元ピアニストの白高律稀(男性)

1人目は、この映画の主人公でもある男性、りつき君です。
彼は母親からの期待を一身に受け、その期待通りピアニストとしてまっすぐな人生を歩んできました。ところが、ピアノのコンクールであまりのストレス(もしくはプレッシャー)から指が動かなくなり、ピアノが弾けなくなります。
ピアニストとして働けなくなった彼は、ひょんなことから「断捨離パラダイス」 という汚部屋専門の片付け業者のチラシを見、そこで働くことを決意します。
ピアニストという華やかな仕事から一転、汚いものを扱う仕事へ。それを知った母親は激怒するんですが、きっとりつき君の人生で初めての「選択」なんですね。

このピアニストの男性が断捨離したかったものは何なのでしょう。おそらく、「親の言いなりとなって何も考えることなく歩んできた自分の人生そのもの」だったのではないかな、と思うのです。
映画の冒頭でりつき君は断パラの社長に
「探し物が見つかるおまじないって何か知ってる?」と聞かれます。汚部屋では「失くしたものを探してほしい」と依頼されることが多いので、業者は血眼になって探さなければならないのです。おそらくそのことを言っているのかな、と思うのですが、りつき君はなんと
「僕、探し物をしたことがないかもしれません」 みたいな返事をするものだから社長は驚きます。しかしこのシーンはさらっと流されてしまいます。
人生で一番長く時間をかけるのは「睡眠時間」、そして次に長いのは実は「探し物をしている時間」なのだそうです。これ、出典は不明なので本気にしてなくていいんですが、確かに私たちってずっと探し物をしている人生なんです。
カバンに入れてた 鍵がないとか、冷蔵庫に入れてた野菜が出てこないとか、子供から預かったはずの書類がどこかに行ったとか。
なのに、りつき君は「探し物をしたことがない」と言います。それはつまり 自分で何の判断もせず、周りの人間が全てを与え続けていたということの証明でもあるんですね。
私は度々このnoteで「考えることの難しさ」というのを発信しているつもりなのですが、何も考えることなく生きていけるというのは、果たして羨ましいことなのでしょうか、それとも。

■2人目:シングルマザー青原明日華

シングルマザーの青原さんには1人の息子がいるのですが、ゴミ屋敷に住んでいるため子供を風呂に入れることもできません。どうやらその結果、子供が軽くいじめられたりしているようで…そのことを気にかけて担任の先生が「家庭訪問をさせて欲しい」と申し出ているシーンから始まりました。
(唯一の救いは彼女とその息子の仲がとても良かったことです。これで虐待していられたら観るのが辛かっただろうなと思うので…)
そして、その家庭訪問に合わせて断パラに依頼するわけです。
プロの業者ですので、テキパキと部屋を片付けて行きます。
が、途中で、この母親が過去に出演していたアダルトビデオが大量に出てくるのです。
りつき君はこのビデオを捨ててしまおうとしますが、シングルマザーは頑なに拒みます。
りつき君は真面目な性格なので、「こういったものは捨てた方がいい、子供に見つかったら大変だ」と諭すのですが、母親は一言、
「絶対に捨てません。…あなたには分からないでしょうね」とキツイ瞳で返します。

断捨離というのは世間的にはただ「ゴミを大量に捨てること」だと思われているようで、私としては本当に憤懣やるかたないのですが、決してそうではありません。
モノを通して人生と向き合うための作業です。その中には当然、「断ち切らなければならない」ものもありますが、逆に決して捨ててはならないものも出てきますし、絶対に捨てたくないものに気付くこともあります。

考えてみてください。自分が過去に出演していたアダルトビデオが存在したとして、それを「絶対に捨てない」と言ったこの母親の心境はどんなものだったのでしょう。
この母親の心中は一切語られることがありませんでした。
すごいシーンだなと思いました。
いわゆる「普通の感覚」では、アダルトビデオに出演していたなんて黒歴史だと思うじゃないですか。しかしこの母親の中ではその「普通」は通用しないわけです。では何だったのか?
「自戒のために保管をしておく」という意味なのか、
「若く美しかった自分を忘れたくない」という理由なのか、
「そんな過去も含めて今の自分がある」という彼女なりの想いなのか。
それらも全て私の想像でしかなく、映画の中には何らの答えもありません。

私自身は日本のアダルトビデオ業界に良い印象は持っていません、だからこそこのシーンがとても印象的でずっと考えさせられています。

■3人目:介護士のフィリピン人男性Von de Guzmàn

フィリピン人男性(お名前の読みを忘れました💦)Vonさん。
真面目に介護施設で働いており、その勤勉さを買われて別の施設にヘッドハントされたため、引っ越すことになりました。その真面目な勤務姿勢とは裏腹に、彼の家はゴミ屋敷だったのです。

作業をしていたりつき君はこの部屋に違和感を覚えます。
「この部屋、散らかったのはここ1~2年のような気がします。それ以前はきれいに整頓されていたのではないですか?」
人の家の掃除をしていると、ゴミが教えてくれることがあるんですよ…!
で、こういう違和感を覚えることが多々あります。プロファイリングできるわけじゃないのに、家族構成が読み取れたり、どんな性格かもまざまざと分かるのです。りつき君がすこし成長しているのも見受けられますね。

で、Vonさんは頷きます。「1年前に故郷のお母さんが亡くなってから、片付けられなくなった」のだと。
心因性の「汚部屋」は確かに存在します。遠い異国で真面目に働いていて、きっと母親の死に目に会えなかったのではないでしょうか。だからこそ自分を責めてしまい、何もかもに手がつかなくなってしまった…仕事だけは真面目にこなしているものの、部屋に帰ると後悔ばかりが押し寄せてくる。
(…かどうかは一切わかりません、あくまで私の想像です!)

■4人目:いわゆるゴミ屋敷にすむお爺さん、金田繁男

いわゆるゴミ屋敷に住んでいるおじいちゃんのケースです。こちらは明確に「他の人に迷惑がかかっている」汚部屋のケースです。
ところで、「行政執行」というものが取り沙汰されるようになりましたが、条例がない限り行政執行ってできないんですね。初めて知りました。
テレビニュースにも取り上げられ、苦情を言う周辺住民たちに反撃をしたり、とにかくこの家は酷いのです。
このニュースを見て1人の男性が焦った顔をします。このゴミ屋敷の主の息子です。
自分の家族には「父親は死んだ」と伝えていたらしいのですが、実は実家がこんな汚部屋で、父親とはほとんど絶縁状態。なのにまさか、ニュース沙汰になっているなんて! と青い顔。
この息子、実は断捨離パラダイスの社長の先輩でもあったんですね。
それで「極秘に親父の家を片付けて欲しい」と依頼をしてきます。
親とは不仲だから自分の言うことなんか聞いてくれやしない、頼むからお前から説得して片付けてくれ~! と頼み込みます。

断パラの社長は嫌々ながらも説得を試みるのですが、この「説得方法」というのが非常にためになりますよ!
汚部屋の人に対して「片付けた方がいいですよ」だとか「他の人も困ってますよ」なんていう説得は一切しません。
ひたすら一緒に麻雀をしたり、飲みに行ったり、友達になろうとするのです。
「実家の片付け」の模範的な内容であり、ここだけは文字や言葉で注釈を入れて欲しかったなと思うぐらい!

こうして、ご近所さんからの苦情には一切取り合わなかったこの頑固親父が、最終的には断パラの社長にだけは心を開き、片付けを快諾するに至るのです。

ところで。息子からは1つだけ依頼がありました。「絶対にこの家の中にあるはずの骨董品を探し出して欲しい」というのです。
これが実は数千万はするような超高価なもので、息子的には本当は親父が心配なのではなく、金目のものを自分が引き取りたいという下心があったのですね。
ところが親父の方は息子を信用していません。親父は独自に断捨離パラダイスに依頼をし、息子が知らないうちに片付けが開始されるのです。この辺のいざこざは本当にユーモラスで面白いものでした。
さぁ、その骨董品が見つかるのですが、どうなったと思いますか…?
(このシーンもすごく考えさせられました…!)

■5人目:小学校教員の岸田万莉子

真面目が服を着たような小学校教諭が出てきます。実は、2人目のシングルマザーに「家庭訪問させてほしい」と言い募っていたあの教師です。
生徒思いで清楚華憐な感じの彼女もまた、家がゴミ屋敷でした。
これはもう、単純にストレスでしょうね…。
「教師とはこうあるべき」「恋人だったらこうするのが当然」という周囲からの圧力が、こんな風に歪を作っていくんだなぁ…と、心苦しくなりました。

彼女にはこれまた完璧な彼氏がいるのですが、その彼から結婚を申し込まれます。指輪を貰い、幸せの絶頂――なのですが、彼氏は実は彼女の浮気を疑っています。だって、何が何でも部屋を見せようとしない彼女ですから。理由をつけては彼氏を部屋から遠ざけようとするのに、彼氏は「片付いてないくらい構わない」と無理やり部屋に来ようとします。
そして、最終的に、部屋に通すのですが――あまりの汚さに彼氏は吐いて逃げ出してしまうんですね。
これで破局かと思いきやその彼、それでも諦めず、断パラに依頼して「彼女の部屋を片付けてほしい」と言うのです。
皆さんはどう感じますか?
「彼氏が片付け業者を呼んでくれるなんて、優しい彼氏だなぁ」と思います?
この彼女はきっと絶望だったのだと思います。一緒に片づけようとするわけでもなく、金で解決しようとしてるんですよね。しかも、「女たるものキレイであるべき!」という固定観念が見え透いています。結婚しても事あるごとに「キレイにしていない」ことに対して文句を言われそう(あくまで私が感じたことですが!)
ラストシーンもぐぐっときますよ…!
猫のシーンがね…もう…そしてそれから「猫ふんじゃった」につなげる脚本のあざとさや…!

■6人目:断捨離パラダイスの社長、市木八吉

考えさせられる重い内容が続く中、常に明るいこの社長には救われます。
(もしかしたらこの人も汚部屋出身だったりするのかもしれませんね)
この社長が発案なのだと思うのですが、断パラをご利用のお客様には最後「くじびき」をしてもらうシーンがあるのです。断パラからの粗品が当たるんですが、それが面白いように各人のストーリーを結んで繋いでいきます。

■「あなたが整えたいものは何ですか?」を問いかける映画、かな。

断捨離、片付け、整理整頓――いずれも何かを整えていく作業です。
残念ながら自分の手に負えなくなった時、他人に頼っても大丈夫なのです。

真面目に生きているのに部屋がゴミ屋敷になっている若い人たちが何人もこの映画に登場します。
心の乱れや、解決されず山積していく悩みをそのまま絵にしたような汚部屋です。

誰かに頼り、それを片付ける時、何かが見えてくる。
そのなにかは、時として絶望的に苦しいものだったりもする。
けれど、見つめていると、その先に解決法も見えてくる。
変えたい過去だったり、変えたい人生だったり、いろんなテーマが潜んでいるんだけど、それが全部「ゴミ」のせいで見えなくなっている、というのはまさしく今を生きる人の人生そのものみたいだなって思えるすごい映画でした。

感極まって上手く伝わらないんですが、私的にはめっちゃ面白かったのでぜひ見ていただきたく…!!!




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