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Labの男34

 Labの男34

廃工場で一汗かいた後に
来栖から宿題をもらう。
 「気配を消す訓練だ。
  2〜3日知り合いを尾行しろ。
  できればお前の気ごころの知れた我々サイド
  少しは経験のある身近な奴がいい。
  そいつに気付かれずに尾行をする」

 「よっぽど上手く気配を断たないと
  知り合いにはそくバレるからな。
  丁度いい実践も兼ねた鍛錬だろう」

 「まだまだ感情をコントロール
  出来てないからな。
  殺気であれ怒り悲しみであれ漏れ出すと
  手練れはことごとく察知して存在に気がつく。
  まず気配を消すところからだ。
  それでなくても橘は目立つからな」

いい球をほり投げたつもりの来栖

 【知り合いとなると野口と小比類巻くらいだろ?
  野口はほとんどLaboに入り浸りだから
  小比類巻を尾行してくれれば
  助かるんだけどな】

少し唇の片方が上がってきている。ふふんっ。
失恋ってのもいいモノだ。ふんっ。


当たり前のように橘は
修行の後、そのまま小比類巻の家に直行する。
気がきく彼女は風呂を沸かして待っている。
扉を開けるや否、小比類巻を抱きしめる
アメリカンスタイル橘。
アン「早くお風呂に入りなっ」
橘「なんで、いいじゃないよ」
「あとっ後っ」明智の手をひきはがし
アン
「あっ、そうそう明日からしばらく出張なのよ」

 「あっそうなの!寂しくなるね〜」

「本当に思ってる?
 定型文がそのまま口から出てない?」

 「独りご飯を食べるのは味気ないものよ。
  2人で食べるのに慣れちゃったからね」

「ふふふっ
 それは、本心で言ってるっぽいけど
 明日は少し出るの早いから
 すぐに寝るからねっ!分かった?」

ヘンゼルとグレーテルは、道に迷わないように
橘は歩きながらネクタイを外し シャツ 靴下
パンツと置いていく。

「もぉ〜っ置いてかないの!
 洗濯機に入れてよね」
服を回収しながら橘を追いかける。

 「もうヘロヘロなのよ〜。後でするからっ」

「イヤなのよ〜なんか痕跡残す感じがね」
和やかな会話はつづく。

同フロアーにエレベーターが止まる。
扉が開くとそこには
紺色スーツ姿の男が立っており
まっすぐ小比類巻の部屋の前、歩みを止めて
少し聞き耳を立てている様だ。するとそのまま
振り返りエレベーターへ、ボタンを押し
下のフロアーへと消えていった。

翌朝
独りで寝るつもりだったダブルベット
大のおとな2人だと少々手狭な寝床
それはそれで
なんだか、ふたりには丁度いいみたいだ。
橘は背を向けタヌキ寝入り
そそくさと準備を整え出ていく小比類巻。

 ごそごそガッチャン コッコッコッ

ちょっとした遊び心が働いて
尾行する気満々の橘は
玄関を出て行く音を聞くや否や
飛び起き手短にスーツを着こむ。
意外と
橘は制服を着ないとスイッチが入らないタイプ。
足早にワイシャツを素肌に羽織り ズボン 靴下
ネクタイはポッケに忍ばせ颯爽とジャケットの袖に手を通しながらドアを出る。
準備万端
いつのまにか手グシで
七三分けに整えられている。
玄関を出て
目の前に広がる景色から下を覗き込むと
ちょうど足元の道路角を曲がる小比類巻を目認
そのまま颯爽と飛び降りると死んじゃうので
軽い足取りでエレベーターに乗り込む。
エントランスを飛び出して
軽々と追っかけ曲がっていく。
しばらく尾行していると
コンビニに入った小比類巻
2〜3ブロック手前で観察している間に
ノールックでネクタイをつけている橘。
中から小柄な女性の人影が近づき
自動ドアが開き買ったパンをすぐさま開封
パンを食べながら店を出てくる小比類巻。
素の彼女を見て少し笑う橘
 「なんの躊躇もなく食べちゃうんだね」
そのまま尾行を再開しょうとするが
違和感を感じる。
小比類巻の後に紺色スーツの男が出てきたが
彼女と同じ方向へ歩みを進めるのに
少し距離を測ってる感がある。
小首をかしげるもそのまま尾行を続行。
小比類巻はパンを頬張りつつ脇見もせず
階段を降りて地下鉄へ同じく紺色スーツも続く。
距離を取り彼女と1車両隔てた電車に
乗り込む紺色スーツ。
橘も紺色スーツと同じ車両に乗り込む。
食べ終えたと思ったらカバンからもう1つ
パンを取り出し何事もなかった様に
車内で食べ始める。
思わず笑ってしまう橘
「ははっ2つ目はソーセージフランクって
 わんぱくだねぇ」
思った以上に笑い声を上げてしまった。
紺色スーツの男が、振り返っている。
しまった!と思うと同時に
どうも、その顔に見覚えがある?だれだ?
そのまま歩いて男に近づく橘。
肩をたたき
 「何してんのよ?こんな所で?」
記憶から無くなるはずもない
路地で揉めて拉致されそうになっていた男
橘がエージェントになったきっかけの
ナナシの男
 「おおっ橘か〜!びっくりしたよ。聞いてるよっ
  来栖さんにシゴかれてるんだってね」

 「もう毎日身体中バッキバキよ。
  おかげで以前の倍以上身のこなしよ。
  ドロップキックはキレが増して
  イナズマが出ちゃってるかもね。
  それはそうと
  何よ?小比類巻、尾行してる?」
ナナシ
 「シーィっ、橘っ!声が大きい
  ダメよ。任務中なんだから。
  あれっ知らない?
  スパイ疑惑があるんだよ彼女」
まばたきパチパチ橘
 「んん〜っ!嘘だぁ、冗談でしょ?」
ナナシ
 「彼女っ、きな臭いよ。住まいが2つあるんだ。
  1つは自分名義で借りてて、もういっぽうが
  どこかだか分からない名義で借りられてる」

 「……………っそれはビンゴじゃない?」
ナナシ
 「定期的に他製薬会社社員とも会ってるのよ。
  で、それは誰にでもある話で
  色々と円滑にコトを運ぶのに
  そんな事は山ほどあるんだよね」

 「で、おかしな怪しい行動はないのよ。
  表向きでも他製薬会社との交流はあるだろう?
  設定の話ね、裏ではバッチバチだけど。
  だから、最初は引っかからなかったんだけど
  どう調べても片方の部屋名義が分からない?」

 「参ったねぇ〜」
無意識に七三分に触れているが
それどころじゃない胸の内を
なだめようとしている仕草

ナナシ
 「地下鉄に乗ったって事はもう一方の方へ
  行くんじゃないかな。何かの準備をしにさ。
  橘は、今日も修行じゃないの?」

 「今日はこの尾行が修行なのよ。
  ちょっとミッションの風味が
  変わってきちゃったけど」

少し町外れな駅で下車
ナナシと橘は引き続き尾行する。

 「かれこれどれくらい尾行してるの?」
ナナシ
 「ガッツリではないけど、この2〜3日くらい」

 「うーんと、あのぉ〜知っちゃてる?」
ナナシ
 「う〜ん…そうねぇ〜大体のところはね」
片手で顔をおおい、うな垂れる橘
 「あ痛たたた〜っ」
ナナシ
 「橘ってカンがいい方だよね?だから
  よっぽど彼女手練れなんじゃないかな?」
心中察してくれてるやさしいナナシ

 「すぐに顔忘れちゃうけど
  印象通りやさしいんだね」
ナナシ
 「橘も子供が生まれたらそうなるよ」

 「さっささ、妻帯者なの!マジで」
ナナシ
 「2人いるよ、男の子と女の子」

 「エージェントは独身ばっかじゃないの?
  危険な仕事だぜ」
ナナシ
 「僕の場合は、橘が直面する様な場面になる前に
  バトンタッチする、橋渡し役だからね。
  事実関係を洗い出して
  確認してある程度の足取りが分かれば
  諜報部門へ丸投げよ」

 「2人拉致された頃とは違って
  こっちはコッチで、危険を感じ取るセンサーは
  恐ろしく感度が上がったからね。
  経験ってヒトを成長させるね。
  もうあんなヘマはしないさ」

 「なるほどねぇ〜。もう自分1人の体じゃない
  からねっ!なんて言うけど
  本当そんな感じだ!」
ナナシ
 「元々、鼻がきくだけなんだって。
  そもそも武闘派でも肉体派でも
  なんでもないからさ〜
  自分には合っている仕事だと思ってるけど」

 「橘は命の恩人だからね。
  いつかカシを返さないと と思ってたんだよ。
  ひと通り調べ終えたら
  君に教えてあげるつもりだったんだけど。
  結果的に直接、たずさわる事になるとはね」

「やっぱり橘は、何かしら もってるね」


話にクギズケのマコと玄白を横目に
明智は手にとった缶コーヒーを飲み干し
 「同僚のナナシに
  スパイ疑惑の話された時は
  腰砕けになったけど
  ナナシのやさしさに触れて
  覚悟が決まったわけよ」

 「エージェントならではの洗礼を早速
      受けることになるとは、とほほ…」

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