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Labの男48

 Labの男48

何事も無かったかのように人は暮らしているが
ナニかしらかを抱えて生きている。
見て見ぬふり、それぞれの立場を演じて
知らぬふりをして暮らしているだけなのだ。
絶えず根底に流れていて傍らにいる
決して満たされる事のない『渇き』
脈打つ渇きは生きる活力であり営みそのものだ。
際限がない欲望を飼い慣らしつつ
時にはコレだと信じて実行するのは
尊い行為だ。
それには疑いの欠片がなく
すでに行動に移っている潔さ
言語化されていないシンプルさ。
たとえ手に入れた結果が
手の届かない憧れだとしても
それはどうでもいい。
前に進んでいる以上後に引く気がない
『覚悟』が尊いのだ。
行き当たりばったりでもいい
逃げ出しちゃても誰も咎めないだろう。
たとえ忘れられたとしても
カラダが覚えている。
インスタントな諦め、
小手先の
くだらない落とし所の話しを
しているのではない。
心意気の話しをしているのだ。


ノートパソコンと睨めっこの2時間
コーヒー4杯とため息が2つ
タバコにして2本は少ない方だろう。
明智は洗いざらい盗聴記録を聴き漁り
事件になるであろう計画
想像に一段落をつける。
首謀者は鉄道会社を取り仕切っている
王立院 三郎【おうりついん さぶろう】
王立院家の三男に違いないだろう。
明智の憶測だが
あくまで三郎はお飾りであろう。何だったら
失敗ついでにしっぽ切りに使われるのが
オチの頼りない男だろう。
計画が上手くいけばそれで良しの。
両手を組みひっくり返して前にゆっくり
伸ばす。「はぁ〜〜っ」と伸びを一つ。
現状ではもう掘れるところは無いだろう。
さて、もうここまでわかっちゃうと
スナックには通わなくても大丈夫そうだ。
メガロゴールデン街と関連する製薬会社のセンを
当たってみようか。喫茶店での支払いを済ませ
近接するビジネス街「本町町」を目指す。
直接の繋がりは残さないだろうから
あいだに中継されるであろう
代理店的な会社を探すのが順当だろう。
小脇に抱えてるノートパソコンむき出しで
歩いてる様は近場に勤めている
ビジネスマンにしか見えない。

 「それにしても銀さんはどこから情報を
  手に入れたんだろう?
  自衛隊関連以外も知ってそうだったよね。
  勝てる勝負にしか手を出さない
  銀さんのことだろうから
  見返りは大きそうだな。そもそも
  来栖さんの耳にはもう入ってるんだろうか?」

ポケットから取り出した細シガレットに火を付け
くわえタバコで本宮町へ向かうのであった。


一方その頃、最下層Laboの玄白
 「現在、イワノフヘッドが直接
  クリスタルマンにアクセス
  実験が行われているでしょ?」

  「そうダス。対話が行われてるダスな」

 「ウッディーさぁ、対話内容は受信できるの?」

  「相手に悟られずダスよね?聴けますよ」

 「それじゃ〜さ、内容を筆記してくんない?
  上層部がナニ考えてるのかを知りたいのよ」

  「どうしましょうダスか?パソコンに
   直接入力しましょうか?」

 「一緒に目を通すことが出来るから
  それなら助かるよ」

マコちゃん
  「これバレたらまずいんじゃ〜ないの?
   厳密には頭の中のことだから
   盗難になるのかなぁ?」   

 「はははっ
  頭の中のことだから足つかないでしょ?
  ルールなんてどこぞの誰かさんが作った
  罪悪感を利用したSystemでしょ?
  バレなけりゃ〜イカサマにならないんだよっ
  知ってた?」

よくもまぁ〜いけしゃ〜しゃ〜と
どのクチが言ってんだかねっ
あきれるマコちゃんは
立ちっぱなしのイワノフボディーに
パイプ椅子に座るように介助してあげたが
イワノフボディーはまるで目が見えている様に
確認もせずイスに着席している。

 「今後の明智Laboの身の振り方に関わってくる
  からねぇ。用心に越したことはないよね。
  用がなくなったら部品交換の人事入れ替え
  には慣れっこだからね」

 「毒にはドクを持って制する意気込みなのよ」

画面に目を通す玄白
指パッチンでウッディーに
 「このクリスタルマンの言っている愛ってさぁ
  ヒトに介入するには不可欠って事?」

  「それは相手がオープンmindだったら
   関係無いんダスが閉ざしてる場合は
   強引に、こじ開ける以外に
   中和侵食に必要になるんダスなぁ。
   例えるなら言葉のない説得みたいな
   モノでしょうか」

自白剤注入ってのは無理やり
強引にオープンmindにするって事だよね?
合ってる?うん、そうだよね。
すると、基本的には個人と他人の境界線てのが
拒絶だからその結界に入るには
無償の愛が必要って事ね!
 差し出しなさい さすれば道は開かれる
ってな感じね。
これはジーザスのお言葉だったっけ?

「もしかしてマコちゃん!
 この黒づくめのジャコウ香る男って
 明智の仇じゃないかい?」

玄白の肩に肘を置いて乗り出して画面を見るマコ

 「金塊アタッシュケースを盗んでいった
  あの男っぽいわね。ちょっと心配よね。
  明智のことだから血まなこになって
  取り返しのつかない事には
  ならないかもしれないけど………
  どぉする玄白?この事知らせる?」

「明智が今追いかけてる件でもいずれ
 遅かれ早かれ突き止めるんじゃ〜ないかな」

木の指で器用にキーボードをたたくウッディー
ブラインドタッチもお手のものだ。
カタカタカタッ カタカタッ バキッ
 「ちょっとこの枝は、ジャマですねぇ〜」
腕先の枝を引きちぎってる。

引きつった顔で聞くマコちゃん
「ウッディー、それ痛くないの?見てて辛いわ」

 「全然、ちょっと、メッチャ、たぶん
  すごく痛くないダスよ」

だっはははははっは×2
 「全く、どつちか分かんないわよ!
  どうも痛くないようね」

玄白「ジャコウの香る男は我が社に不利益を
   もたらそうとしているのは確かだろうね」

ひと通りクリスタルマン対話盗聴を終え

「ウッディーは、どこに住んでるの?」

 「このLaboに住んでま〜す」

「そうか、木人には家、貸してもらえないか…
 でも会社名義で借りてもらうことは
 出来るはずなんだけどな」

 「それでなくてもボクは目立つんで
  街中に住むのは得策ではないと思いますダ」

「Laboだとプライベートがないから
 なにかと大変なんじゃない?」

 「ボクは、水と光さえあれば後はナニもいらない
  ダスからなぁ〜。強いて言えば彼女ができたら
  ひとり暮らししたいダスなぁ」

「木の彼女見つけるのは一筋縄には
 そうそう行かないんじゃ〜ないの?」

 「以前は彼女いたんダスよ。
  木になっていく途中まではね」

「木になっていく過程を嘆いて
 彼女にはキャラクターとして
 受け入れられなかったのね。
 普通に考えたら病気って思うわよね」

 「それにボクはヒトの時間の流れとは違う
  次元で生きているから段々と独りの方が
  楽になっちゃいましたダスよな」

「そんなことないわ!ウッディー!
 私も力になるわよ」

 「本当ダスか!なんだか久しぶりに
  ニンゲン扱いされて感動しましたダ」

「人格的には玄白より遥かにニンゲンなんだから!
 どこか丁度いい
 ロックウーマン落ちてないかしら?」

あったか〜い会話を横目に玄白は
見逃さなかった。手荒に投げ捨てられた枝
ウッディーの破片を。
最初に投げ捨てられた大きめの枝を含めて2振り
枝を握り締め大興奮の玄白
静かなるワクワクを噛み締め
独り高まっているのであった。


ウッディーに挨拶もそこそこに
 「それじゃ〜今日は先帰るねマコちゃん」
珍しく定時に帰る玄白

ガッチャン、鍵穴からカギを抜き
扉が開くと暗闇から光が差し込む。
玄関にクツを脱ぎそのままに上がりこむ。
リビングにはソファーの横にバカでかいサボテン
ジョウロ片手にサボテンを撫でている。
1メートル以上はあるだろうか
クリスタルパウダー配合の水をサボテンに
やりながら話し出す玄白。

「サボさん!今日はい〜ぃの拾ってきたのよ」

 「……………………」

「コレっ生きてる?どう思う?」

 「……………………」

「波長を感じるの!ホントにぃ〜!
 ちょっと楽しみだなぁ!」

玄白は、次なる実験に身震いしながら
強烈な期待に胸膨らませ
サボテンのサボさんに話しかけている。
また人道的では無い事を思いついたようだ。

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