悠木美羽

2014年ビーズログ文庫からデビュー。「お嬢様にしかできない職業」「聖なる花嫁の失踪」…

悠木美羽

2014年ビーズログ文庫からデビュー。「お嬢様にしかできない職業」「聖なる花嫁の失踪」「誓約の花嫁と煌めきの王」「太陽の君と陰の王太子」「時を渡る花嫁と恋の四重奏」など、既刊7冊。

最近の記事

【創作大賞2024恋愛小説部門】教師「最終話」

 実習最終日は、研究授業だった。咲希子は多くの教師が見守る前で授業を披露した。無事に終えた咲希子は、国語の担当主任からお褒めの言葉を頂戴した。 「いい授業だったわよ。さすが中西先生が指導しただけのことはあるわね」  中西先生は満足そうに小さく笑った。結局、咲希子は、中西先生に対していいイメージは持てなかったが、教師としては素直に尊敬していた。咲希子は中西先生の授業から大切なことをたくさん教わった。 「三週間、お世話になりました」  最後に職員室で頭を下げると、中西先生はため息

    • 【創作大賞2024恋愛小説部門】教師「6」

      【創作大賞2024恋愛小説部門】教師「1」悠木美羽 (note.com)  五月の連休明け、咲希子は一人で福岡に戻った。  契約したウィークリーマンションから、バスで三駅先にある、光陽台高校の教育実習に三週間、行くことになっていた。  家具付きのマンションに入ってすぐ、食料品の買い出しにでかけた。住み慣れた地元に戻ってきたので、道に迷うことはなかった。明日から、さっそく実習が始まるのだと思うと身の引き締まる思いがした。 『あんまり身構えないほうがいいよ』  夜、電話で宗司に

      • 【創作大賞2024恋愛小説部門】教師「5」

         その日、講義を終えて修学館に向かうと、咲希子は宗司を探した。昨日借りたハンカチを洗濯したので返したかったのだ。宗司の姿がなかったので谷口さんに訊くと、仮眠室にいると教えてくれた。修学館の奥にある仮眠室に向かうと、咲希子は扉の前で立ち止まった。眠っている相手を起こしていいのか、勝手に寝顔を見ていいのかと悩んだが、部屋の中からうめき声が聞こえてきて、咲希子は思わず扉を開けた。仮眠室にあるふたつのベッドのうちのひとつで宗司が眠っていた。苦しげな声をあげながらうなされている。宗司に

        • 【創作大賞2024恋愛小説部門】教師「4」

          【創作大賞2024恋愛小説部門】教師「1」悠木美羽 (note.com) 最初から読むならこちらへ↑  それから修学館で会っても宗司とは挨拶を交わす程度の関係に戻ってしまった。すれ違ったあと、こっそり後ろを振り返っても、宗司がこちらを見てくれることはなかった。楠木先生に大量の仕事を押し付けられても、咲希子を助けてくれることもなくなった。谷口さんはそのことに気づいているようだったけれど、何も言わなかった。 「……馬鹿ね、咲希子ったら」  ことの|顛末を聞いた花菜は呆れた声で言

        【創作大賞2024恋愛小説部門】教師「最終話」

          【創作大賞2024恋愛小説部門】教師「3」

          #創作大賞2024 #恋愛小説部門  夜 の十時過ぎ、すべての講義が終わり、みなが帰路につくころ、塾の電話が鳴った。 「はい。修学館です」 『お世話になっています。南香里の母親です。娘はまだそちらにいるのでしょうか?』 「少々お待ちください」  電話を保留にして、咲希子が顔を上げると、帰り支度をしていた谷口さんが「どうしたの?」と訊いた。 「もう教室、誰も残ってませんよね?」 「うん。わたしさっきチェックに行ったけど、自習室ももう誰もいなかったよ」 「ありがとうございます」

          【創作大賞2024恋愛小説部門】教師「3」

          【創作大賞2024恋愛小説部門】教師「2」

          「ガンガン行けばいいじゃない。今は誰のものでもないんでしょう?」 買い物の途中で一緒にランチを食べながら、咲希子の友人の花菜が言った。    猫舌の咲希子はスープパスタを冷ましながら唸った。 「……でも先生だよ? わたしなんかが恋愛対象になるのかな」 「今はもう教師と生徒じゃないでしょう? しかも、咲希子のこと気にかけてくれているんでしょう? 逆にわたしなら行かない意味がわからないよ」  大学に入って友達になった花菜は咲希子と違って恋愛には積極的なほうだ。去年、猛アタックの末

          【創作大賞2024恋愛小説部門】教師「2」

          【創作大賞2024恋愛小説部門】教師「1」

          #創作大賞2024 #恋愛小説部門 あらすじ 大学三年生の川村咲希子は、バイト先の塾で高校時代のかつての恩師・白石宗司と再会する。家庭に問題を抱える咲希子は宗司に返しても返しきれない恩があった。同時にかつて憧れていた宗司との再会に胸をときめかせながらも、なぜ咲希子の母校である光陽台高校を辞めたのか、付き合っていたはずの同僚の名瀬先生とはどうなったのか、なぜ福岡から東京にやってきたのか、何一つ聞けないまま、日々を過ごしていた。陰りを帯びながらもときおり宗司が見せる優しさに翻弄

          【創作大賞2024恋愛小説部門】教師「1」