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【帝国大学】東大入試1947年経済学部「西洋史」解説【1848年の意義】

 「東大世界史宝箱」はこちら。
 1947年の東京帝国大学経済学部の入試「西洋史」の「問題」、「解答の指針」、「答案例」になります。

問題

ヨーロッパ近代史上に於ける一八四八年。

解答の指針

 シンプルですが、どうまとめるかには苦戦する人が多いと思います。1848年革命の意義については、1951年第3問や1983年第2問で聞かれており、そのほかにも1979年第2問や2008年第1問などでも関連する論述問題が課されています。

 1848年には、フランスで二月革命がおこりました。選挙法改正を求める集会が弾圧されたことでパリの民衆が蜂起します。国王ルイ=フィリップが退位し、共和政に基づく臨時政府がたてられました。第二共和政といいます。

 この二月革命はヨーロッパ全体に大きな影響を及ぼしました。具体的な内容は教科書と答案例で確認してみてください。そして、この年の動乱によって、その後の世界史の方向を大きく決定づける二つの動きが形としてあらわれます。

 一つ目は、「国民国家」の理念が広がったことです。答案例にも書きましたが、国家は君主の財産や宗教共同体ではなく、一つの均質な国民により作られるものであるべき、という考え方が広まったのです。一つの民族が、一つの「国民」になって国をつくるべき、という考えとセットになって広まります。そういった考えのことを「ナショナリズム」といいます(もちろん定義はさまざまありますが、とりあえずこのようにおさえておきましょう)。

 二つ目は、従来の身分制度が廃止されたことです。貴族と市民の対立がなくなったのです。そのかわり、市民同士の対立がうかびあがります。金持ちと、貧しい人の対立です。資本家(ブルジョワジー)と労働者(プロレタリアート)の対立が顕在化したわけですね。この背景には産業革命の広がりがありますよ。同時に、労働者は団結して革命をおこすべき、という思想も広まりました。社会主義が広まったわけです。

 こうして、これら二つの動きは、これ以降の世界史の大きな特徴を形作りました。「国民国家」の理念が広がったことで、「どこ」の「だれ」が国民国家を作るのか、ということをめぐっての対立や模索が各地でみられるようになりました。

 労働者も「国民国家」にとりこむために、教育制度の整備が進められ、参政権も広げられました。一方、社会主義思想が広まったことで、社会主義革命もおこりました。最初のそれはロシア革命です。その後、いくつかの社会主義国家が誕生し、20世紀の世界で大きな存在感を放ちました。

 答案ですが、問題に「総論」がありませんので、総論で各論をサンドイッチする形でよいと思います。「ヨーロッパ近代史上に於ける1848年」の意義を答えるのが主要求ではありますが、具体例(と年号)があってこそ歴史の文章だと考えたので、革命の具体例をいくつかあげました(ここまで必死に書かなくてもいいとは思います)。

答案例

 1848年は、ヨーロッパ近代史の大きな転換点であった。パリで二月革命が起こり、その影響がヨーロッパ各地に広がった。ウィーン体制が崩壊し、二つの大きな動きがあらわれた。
 一つ目は、国家は君主の財産や宗教共同体ではなく、一つの均質な国民により作られるものであるべき、という「国民国家」の理念が、形としてあらわれたことである。すなわち、各地でナショナリズムと自由主義のうねりがみられたのである。
 プロイセンのベルリン、オーストリアのウィーンでは三月革命がおこり、ウィーン体制を支えたメッテルニヒは失脚した。ボヘミアではチェック人が、ハンガリーではコッシュートに率いられたマジャール人が、民族運動を行った。北イタリアでも、敗れはしたものの、オーストリアに対する挙兵があった。この自由主義とナショナリズムの高揚を「諸国民の春」とよぶ。
 二つ目は、身分制度が廃止されたことにより、従来の貴族と市民の対立にかわって資本家と労働者の対立が顕在化したことである。これを背景に社会主義も広がりをみせた。同年に発表されたマルクスとエンゲルスによる『共産党宣言』は、この転換点を象徴している。
 これ以降、少し時代を待つことにはなるが、国民国家の形成や国民統合が各地で進む。同時に労働者を「国民」として統合すべく、教育制度を整えたり、参政権を拡大したりする努力も各地でみられた。一方20世紀初頭には世界初の社会主義革命であるロシア革命が勃発した。その後いくつもの社会主義国家が誕生し、「短い20世紀」の一大勢力をなした。そして何より「国民国家」の理念が世界中に広まり、各地で「どこ」の「だれ」が国民国家を作るのか、ということをめぐって対立や模索が現在も続いている。
 これら近現代の諸特徴を準備した点で、1848年は世界史の大きな転換点であるといえよう。

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