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茶の木を育てる 3

長くなってきた茶の木を育てる。ここで一区切りとしたいが・・・

前回の2で大切なのは

・茶の葉を採取するのは植物として負担が大きい

・茶は他の作物よりも肥料がたくさん投入されている

でした。

肥料の投入同様に、茶の生命維持のために行うのが防除・農薬散布で今回はそれについて書きます。




防除に関しても肥料と同じ事が起こる。つまり、茶の防除は他の作物よりも多くなる。

美味しいお茶とは何を持って美味しいのか。その答えはリラックスするとか、ほっっこりするとか、そういったフィーリングの世界とは別に基準がちゃんとあり、日本茶においては「旨味」が指標となっている。

旨味とは具体的にはアミノ酸の含有量で、我々は「全窒素」とか「遊離アミノ酸」といった成分の含有量をもって一つの尺度としている。もちろん香りが良いとか飲み口が良いとかの別の尺度もあり、そちらを含めた総合的な良さが茶の嗜好品としての価値だと私は思う。しかし野菜業界の「糖度〇〇!」みたいな数値化されたものでしか大部分の人は良し悪しの判別がつかないのも事実。特に大規模な業界になると数値で管理した方が仕事が均一化するものだ。

アミノ酸を増やすにはどうするか。肥料を増やすのだ。玉露園に大量に窒素を投入すると前記事で書いたが、生命維持の先で高品質の追求が行われている。窒素100kgの土壌汚染はハンパないと思うが・・・そこは有機資材や堆肥を使うなどの工夫があるのだ。

アミノ酸が増えるとどうなるか。お茶が美味しくなる。トマトやいちご、なんでもそうだ。美味しくなると虫が増える。虫だって生きているのだ、美味しいもの=エネルギーになるものから摂取したい。有機栽培の野菜に虫がつかないのは虫の気持ちになってみれば当然だ。隣の畑には化学肥料で急激に糖度が上がった野菜があるのだ。私が虫ならそちらを食べ尽くしてから有機の畑に向かいたい。そうこうして、肥料を投入した農作物には虫が集まり虫害が発生する。

茶の場合、チャノキイロアザミウマやヨモギエダシャク、チャノミドリヒメヨコバイ、クワシロカイガラムシ、チャノホソガ、マダラカサハムシ、などそれはたくさんの虫が集まってくる(ナスやキャベツでもそれぞれに要防除な害虫がきっといる)。彼らの何が悪いのかと言うと、可食部が人間と完全に競合するのがとにかく悪い。茶は葉を摘む。彼らの多くは茶の葉を食しにやってくる。ただでさえ葉を摘むのは木にとって負担なのに、人と虫とで木を殺しかかるが如く奪い合いを行うのだ。

病気も同様で、アミノ酸を蓄えると植物の自然な状態から逸脱するので病気が増える。それは葉で発生して落葉する。光合成ができず木は弱る・・・。


日本茶の持つ嗜好品としての良さ「旨味」を追求すると病害虫の発生は避けられない。そこまでは他の野菜果樹と一緒だが、その奪い合うものが木の生命維持装置である葉であること、これが茶の防除が他の作物よりも多くなる理由だ。

美味しいお茶を作るために、茶の木を生かすために、茶の防除は行われる。


余談だが、自然の中に生えている茶の木はほとんど虫や病気が発生しないようだ。山の中の茶の木にタン素病が発生していたりチャハマキが新芽を撒いているところをめったに見ない。そのかわり、自然の中の茶の木は「これが茶の木なのか」と驚くほどに細く、葉も枝も少ない仙人のような姿をしている。私達人間が管理している木のような力強さもなく、春に新芽を伸ばさない。数百年の寿命の中で気が向いた時に成長しているような不動の姿をしている。

私達は茶の木を育てているようで、茶の種族の繁栄のために「育てさせられている」のかもしれない。





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