見出し画像

「しつけ」 12月号 大野 尚

 「アタイ」は生まれた時から自我が強かった。   
生後三か月迄は、見た目はクレーンゲームで誰もが欲しがる愛くるしいフワ モコのヌイグルミ。 
 そんな「アタイ」をアタイの家族はほっとかない。暇があれば触りたがる・抱きたがる、アタイの気持ちを考えない。でもね、家族のアタイヘの思い=愛情は理解できる。だから「アタイ」も最初はその気持ちを大事にする。正直、少しは嬉しい・・・本当は、めちゃ嬉しい!!でもね、アタイは生まれながらに自分の身体の全身を見ることは出来ない。特に背中からお尻、後ろ脚を触れるのが苦手? 怖い。アタイの眉間に皺が寄る。思わず嚙みついてしまう。・・・「アタイ」の名前は「タタン」そう、タルト・タタンの「タタン」という立派な名があるのに、噛みついた瞬間、「タタ丸」だの、「タタ吉(きち)」だの酷い名前で呼ばれてしまう!! 何て家族なの!

 この「アタイ」の噛みつき癖を治したい。という事で、9月末から4か月間、トレーニング教室に囲われてしまった。

・・・

 一か月後、心配な事が頭を掠める。・・・果たして「娘=タタン」は僕らの事を忘れているのではないか?・・・自宅から車で約30分の道のり、商店やスーパーが立ち並ぶ街道沿いを進み、都市高速の真下を過ぎる。中古車屋やチェーンのうどん屋やファミレスが点在するのを横目で見ながら進むとコンビニの隙間に田畑が望む。川を渡り、麓の寺を過ぎると山への入り口、緩やかなカーブを幾つか過ぎると、そこは「インテリジェンス=諜報機関の養成機関」いや、そうじゃなくて、ドッグスクール。小高い山の中腹にプレハブの建屋が二つに階段を少し上ると運動場=ドッグランがある。

 トレーナーに連れて来られた「愛娘=タタン」はリードを手に持つトレーナーの左側サイドをゆっくり進む。決して前に出ることはない。・・・

一か月ぶりの再開は杞憂に終わる。・・・

 僕らの顔見た瞬間、尻尾を激しく左右に千切れんばかりに振り続ける。駆け出したい気持ちがリズミカルな足踏みとなる。

 トレーナーの「よし!」と言う掛け声と共に僕らに飛び込んで来た!!

「タッ!タタ!!ン、タタン!」と呼びかけ思い切り抱きしめる。

・・・

 「アタイ」は決心した。「アタイ」ではなく「わたし」に変える。・・・

・・・。

 僕らの「愛娘=タタン」は、「タタ丸」でもなく、「タタ吉」でもなく、愛くるしい気遣い出来る「タタン」に変わっていた。・・・これが、本当のタタンなのだ。

 よくぞ、一か月で・・・自我丸出しの子がこんなに利口な子になったのか?

 トレーナーは、愛娘=タタンを「タタンちゃん」と呼ぶ。ゆっくり優しく少しずつ愛情を込めて接してくれる。少しずつ諦めずに彼女に合わせて何度も繰り返し続ける。出来たら「認める・褒める」、何度も繰り返す。しつけとは諦めないコト。愛情を持って接するコト。繰り返し出来るまでやるコト。でも、相手の「強度と持続」=続けられる時間を見極め行う事。・・・

 頭を掠めた。幾人かの顔・・・人間は駄目ですか?と訊いてみた?・・・トレーナー=彼女は答えた。邪念がある人・大人は厳しいですねと笑いながら答えた。・・・ゴールデンリトリバーの愛娘=タタンはとっても素直で良い子ですよ。と言ってくれた。「嬉しかった。」・・・

・・・

 2022年が皆さまにとって良い年になることを祈っています。

僕たち人間も地球に素直にならなくちゃいけない!

この記事が参加している募集

我が家のペット自慢

ペットとの暮らし

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?