小学生に読んでもらいたい進化論の絵本
オトナのみなさん!
子どもたちに、
「キリンはなんで首が長いの?」
って聞かれたら、なんて答えますか?
「キリンはね、
高いところの葉っぱを食べるために、
首が長くなったんだよ。」
という感じでしょうか?
うん。
こういう答えも、間違いじゃないと思います。
でも僕は、子どもたちに、もう少し詳しく進化論を説明したいのです。
なぜなら、進化論の本質は意外にシンプルだからです。
もう少しだけ詳しく説明しても、たぶん10歳ぐらいの子なら理解できると思うのです。
そして、もう少し詳しく理解するだけで、見えてくる世界がまったく違うのです。
そこで、例えば、こんな説明はどうでしょう?
進化論の絵本
これは生き物の進化(しんか)のお話です。
今生きている虫も、鳥も、魚も、植物も、
大むかしは今と違う姿をしていて、
なん千万年もなん億年もかけて、少しずつ姿を変えて、
今の姿になったらしいのです。
これを生き物の進化といいます。
「らしい」というのは、タイムマシンに乗って昔の生き物を見に行くことはできないので、想像するしかないからです。
でも、世界中の科学者たちが、
生き物は進化してきた
という証拠をたくさん集めてきました。
恐竜の化石なんかも、そんな証拠のひとつです。
そして、そんな証拠をよく調べて、
進化について考える学問が「進化論」です。
でも、不思議ですよね?
生き物は、どうやって姿を変えていくのでしょう?
この「進化論の絵本」では、
魚の群れのたとえ話を使って、
進化のしくみ
生き物はどうやって姿を変えていくのか?
についてお話ししたいと思います。
どうぞ、読んでみてください。
* * *
むかしむかしあるところに、黄色い魚の群れがあって、みんな仲よくくらしていました。
魚たちは、まわりにあるエサを食べてくらしていました。
黄色い魚たちがエサを食べて生きていくためには、まわりのエサをぱっくり食べられるだけの大きさの口が必要です。
でも、あまり大きすぎる口は必要ありません。
なのでほとんどの黄色い魚たちは、
「エサを食べるのにちょうどいい大きさの口」
つまり
「ふつうの大きさの口」
を持っていました。
でも、群れには変わり者もいました。
ふつうより、ちょっと大きな口を持った魚もいたのです。
ふつうよりちょっと大きい口を持っているので、体ぜんたいもふつうよりちょっと大きめでした。
そして、ちょっと大きめの体で生きていくために、ふつうよりちょっと多めにエサを食べる必要がありました。ふつうより多めにエサを食べるのは大変なので、ふつうより生きていくのがちょっと難しい・・・。
なのでこの口が大きめの黄色い魚は、群れの中でたくさん増えることはできませんでした。群れの中に、いつも少ししかいなかったのです。
でも、数は少ないけど、ふつうより大きめの口と体を持った魚もいた、ということを覚えておいてください。
この群れの魚たちは、みんなそっくり同じではなかったのです。
そしてある時、とつぜん!
こんな黄色い魚たちの群れに、事件が起こりました。
近くに、青い魚たちの群れがやってきたのです。
青い魚たちは、黄色い「ふつうの」魚たちと、同じぐらいの大きさの口を持っていました。
つまり、
黄色い魚と、青い魚は、
「同じ大きさのエサ」を食べるのです!
すると、どうなるでしょう?
エサの取り合いが起きてしまったのです・・・
ふつうの黄色い魚が食べられる大きさのエサは、あっという間に少なくなってしまいました。
すると・・・
今まで数が少なかった大きめの魚の大きめの口が、
とつぜん、ものすごく役に立つようになったのです。
なにしろ、大きな口があれば、
ふつうの大きさの黄色い魚たちも、新しくやって来た青い魚たちも食べられないような、大きなエサを食べられるんですから!
大きなエサはなくなっていませんから、
大きな口で大きなエサを食べられるのは、ものすごくいいことです。
ふつうの大きさのエサがなくても、生きていけるのです!
こうして黄色い魚の群れの中で、
ふつうの口の魚は、生き残りにくく、
大きな口の魚は、生き残りやすくなりました。
すると、大きな口の魚のメスと、大きな口の魚のオスでペアになって、卵を産むことが多くなっていったのです。この卵からは、また大きな口をした魚の子どもが生まれてきます。
みなさんも、顔や体の特徴(とくちょう)が、お母さんやお父さんに似ているでしょう?
魚も同じで、親に似た子が生まれてくるのです。
こうして長い年月がすぎると、どうなるでしょう?
黄色い魚の群れの中で、大きな口の魚が少しずつ増えていくのです。
そしてついに、
黄色い魚の群れでは、口の大きい魚の方が数が多くなりました。
口が小さい魚はほとんどいなくなってしまったのです。
こうして、
黄色い魚は大きめのエサを食べ、
青い魚は小さめのエサを食べるようになりました。
違うエサを食べるんですから、エサの取り合いもなくなりますね。
こうしてふたつの群れは、幸せにくらせるようになりましたとさ。
おしまい
* * *
どうでしょう?
難しかったですか?
わりとかんたんだな~、と思ってもらえたら、うれしいのですが。
大切なことは、
進化は自然に起こる
ということです。
この、黄色い魚と青い魚のお話には、
「黄色い魚の口を、もっと大きくしよう」と思った誰か
は出てきません。
また、黄色い魚たちが、
「もっと口が大きくなりたいなぁ」と思った
というお話も出てきません。
ただ、
群れの中に変わり者もいて
群れがくらす環境(かんきょう)が変わる
というだけで、進化は自然に起こるのです。
これが分かると、生き物が進化することは、べつに不思議なことじゃない、と感じられると思うのですが・・・
どうでしょうか?
オトナのみなさんへ
どうでしょう?
オトナの言葉で書くと、ポイントは、
進化は「自発的」に起こる
ということです。
もう少し詳しく言うなら、
・個体の特徴の多様性
・環境の変化
このふたつがあれば、進化は自発的に進んでいく。
さらに詳しく書くと・・・
① ある環境では、その環境で有利な特徴を持った個体が大多数を占めるが、やや不利な特徴を持った個体も少数ながらいる。
環境が変わると、それまでやや不利だった特徴が、有利になることがある。
② すると、新たに有利になった特徴を持った個体が生き残りやすくなるので、その特徴を持ったメスとオスが交配する確率が高くなる。そして、その子も同じ特徴を持つ傾向があるので、世代を重ねると、新たに有利になった特徴を持った個体が次第に増えていく。
・・・という感じでしょうか。
ただし、これは進化のプロセスをすごくシンプルにしたストーリーなので、いろんな説明を省いています。
例えば、口が大きめのメスとオスの間に生まれた子は、親よりさらに口が大きくなる傾向があります。ですから正確に言うと、世代を重ねると元々いた「口が大きめの魚」より、群れ全体の口の大きさはさらに大きくなっていくことがありえます。しかし、「絵本」ではストーリーを単純にするため、元々少数派だった「口が大きめの魚」が、だんだんメジャーになっていく、というだけのお話にしています。
また、黄色い魚の群れが、互いに行き来できない離れたふたつの場所に分かれてしまい、片方の群れにだけ青い魚の群れがやってくる、ということもありえます。すると、片方の群れだけが口が大きくなる方向に進化していきます。こうして世代を重ねていくと、ふたつの群れは互いに交配できなくなり、ふたつの異なる種に分岐していくのです。この「種の分岐」についても、「絵本」では描いていません。
さらに、
進化の基礎となる「遺伝子」について一切書きませんでしたし、
遺伝子の「突然変異」についても書きませんでした。
また、私たち真核生物の進化には、メスとオスがあること、つまり「有性生殖」をすることが深く関わっていますが、このことも書いていません。
もし、今回はお話ししなかった詳細にも興味を持ってくださったなら、詳しく書いてある進化論の入門書や教科書がたくさんあります。そういう本も手に取っていただけると、とてもうれしいです。
* * * * *
最後まで読んでくださって、ありがとうございます!
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