文春文庫 2020年10月のラインナップを担当者がご紹介します!
あんなに寝苦しい夜が続いていたのに、季節はすっかり秋。秋空を見るたびに、「旅に出たいなー」と思います。
今月は、原田マハさんの小説『ハグとナガラ』、そしてオードリー若林正恭さんの紀行エッセイ『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』と旅心を満たしてくれる本が揃いました。
◇ ◇ ◇
◆注目の新刊◆
★コロナ禍だからこそ読みたい! 女ふたりの気ままな「旅」物語
原田マハ『ハグとナガラ』
アート小説で知られる原田マハさんが、女同士の友情を描いた文庫オリジナル短編集を刊行します!
恋も仕事も失い、すっかり絶望していた36歳のハグ。
そんな折、大学時代の同級生のナガラから「一緒に旅に出よう」とメールが届き、ふたりは14年ぶりに再会。以来、年に3~4回、ともに花を愛で、温泉に浸かり、美味しい名物を堪能しに旅に出るようになります。
転職、恋人との別離、親の介護……人生の折り返し地点から始まる、泣き笑いの6つの旅物語。ぜひお楽しみください! (担当MS)
★確かな思考の重みを感じる、傑作紀行文!
若林正恭『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』
著者は大人気お笑い芸人、オードリーの若林正恭さん。その若林さんの傑作紀行文が、満を持しての文庫化です。
旅先は、キューバ、モンゴル、アイスランドという、非常に珍しい3カ国。
自らを「めんどくさい人」と称し、旅先で見たものや人々との交流と、「灰色の街」と呼ぶ東京での消費生活とを、一つ一つ比較して点検していく若林さん。その文章には確かな思考の重みがあり、読者の価値観を揺さぶることでしょう。
シンプルながら丁寧な文章を読むにつけ、若林さんは「めんどくさい人」なんかじゃない、「とても誠実な人」なんじゃないか、と感じます。(担当NK)
★久々のシリーズ4作目。粋で格好良い主人公が帰って来た!
山本一力『牛天神 損料屋喜八郎始末控え』
損料屋とは、江戸時代に鍋や布団など生活用品を貸し出す今でいうところの“レンタル業”。ある事情で武士の身分を捨てた喜八郎という男が主人公の物語です。
寛政の改革以降、景気の冷え込んだ江戸・深川の広大な火除け地跡で大規模な工事が始まり、周囲はその恩恵にあずかるかと思いきや、ある材木問屋が裏で何やら企んでいるらしい。地元を守るため、喜八郎が立ち上がる──。
実はこの作品、2000年に刊行された著者のデビュー作がシリーズになっているもの。今回、9年ぶりの文庫化です。(担当NT)
★九州の若獅子吼ゆ!
安部龍太郎『宗麟の海』
大航海時代の洗礼を受けつつあった時代に、信長より早く海外貿易を行った先駆者、大友宗麟。交易により鉄砲の硝石と鉛を手に入れ、強大な武力で豊前・筑前・筑後・肥後・肥前へと勢力を拡大。理想の王国を作ろうと夢にむかって駆け抜けた男の半生を描きます。
近年大友居館が発掘されるなど、地元で顕彰が進む新しい宗麟像に出会えます。(担当MI)
★テレビアニメ、大好評放送中!
石田衣良『池袋ウエストゲートパーク ザ レジェンド』
テレビアニメの放送と配信がぎ始まった大人気シリーズ「池袋ウエストゲートパーク」。もうご覧になりましたか?
シリーズ初の傑作選「ザ レジェンド」は、読者の人気投票で上位に入ったエピソードや、アニメ化エピソードから8篇を厳選!初期から最近の作品まで、マコトとタカシの熱いレジェンドが一気読みできます!
アニメの予習をしたい方にも、より深く読みたい!という方にもおすすめです!(担当TT)
☆こちらもぜひ!
★遺されたのは借財、託されたのは店の再建
千野隆司『出世商人(一)』
「おれは一万石」シリーズで大人気の千野隆司さんによる、書き下ろし時代小説の新シリーズが遂に文春文庫から刊行されます。遺されたのは借財、託されたのは店の再建。急逝した父が遺したのは借財まみれの小さな艾屋だった。育ててくれた親の為、再建を志した文吉は借金返済のためにある一大事業へ己の命をかけます。さて、その商いとは?
商売敵による悪辣な妨害にもまけず、立派な商人へとなれるのか。新シリーズご期待ください。(担当RT)
★ダンディーな若隠居、清兵衛にしびれる!
稲葉稔『武士の流儀(四)』
元風烈廻りの与力で若くして隠居した清兵衛が、江戸の人々の厄介ごとに首を突っ込んでは鮮やかに解決する人気シリーズ。今回も洗張屋の夫婦や八百屋の息子など、愛すべき人々に手を差し伸べます。
担当の個人的なおすすめは「うなぎ」に出てくる元”お偉いさん”の武士。清兵衛と対照的な人物ですが、身近にいる! こういう人! とも思わせられる、なんだか憎めないおじさまです。(担当TT)
★今度の魔物は一体何か?
風野真知雄『耳袋秘帖 眠れない凶四郎(四)』
妻殺害の真相は解決したものの、凶四郎の不眠症は治らずじまい。奉行の根岸による温情で、しばらく夜専門の同心として江戸の闇の警戒に当たっています。
そんなある夜、土蜘蛛の仕業とされる殺しが起きます。被害者は芝居小屋の裏方を務めていた与五郎という男。与五郎の懐には「次はおその」と書かれていた紙片が残されていた。これが江戸中を震撼させた連続殺人事件の幕開けでした。待望の文庫版書き下ろし、お楽しみください。(担当MI)
★女芸人と女子アナの痛快シスターフッド小説!
吉川トリコ『夢で逢えたら』
「笑っていいとも!」レギュラーを目指していた女芸人の真亜子と、「将来の夢はお嫁さん?」だった女子アナの佑里香。
それぞれ夢にやぶれ、道を模索していた二人の出会いが化学反応を起こし、新たな笑いが生まれていく──業界のお約束も、社会の理不尽も、笑ってぶっ壊す!
新たな痛快シスターフッド小説の誕生です。(担当NY)
★俺には才能がない。それでも今日も筆を執る──
谷津矢車『おもちゃ絵芳藤』
俺には才能がない。いやというほど分かってる。それでも今日も筆を執る──うだつの上がらない絵師の歌川芳藤は、幕末から明治という時代の流れに抗いながら、自分の存在価値、居場所を探し続けます。
月岡芳年、河鍋暁斎、落合芳幾ら個性豊かな絵師や、お雇い外国人のジョサイア=コンドルといった歴史上の人物が繰り広げるてんやわんや、文明開化期の浮世絵界の激動ぶり、きっとこんな感じだったのでしょう。
現代に生きる我々、特に物を生み出すクリエイターの方たちにとっては、全編ビシバシと胸に突き刺さる内容です。(担当KK)
◆今月の「居眠り磐音」
佐伯泰英『秋思ノ人 居眠り磐音決定版(三十九)』、『春霞ノ乱 居眠り磐音決定版(四十)』
人気時代小説、「居眠り磐音」シリーズの決定版は、毎月2冊ずつ刊行中!
今月は、第39巻『秋思ノ人』と第40巻『春霞ノ乱』です。
養父の剣友だった速水左近が、甲州勤番支配から幕府重職の奏者番として江戸に戻ってきます。ただ、江戸までの道中には田沼一派の妨害が。磐音は甲州街道を急ぎます。
一方、関前藩の中居半蔵からは、藩の物産事業を巡る不正に、父で国家老の正睦が関与しているとの疑いを聞かされます。磐音は父の嫌疑を晴らすことはできるのでしょうか。
左近という心強い仲間が戻り、磐音の戦いは御三家や譜代をも巻き込んだ、新たな局面を迎えます。(担当TS)
☆居眠り磐音 特設サイトはこちら!
★幸福の絶頂とその翳り、林真理子さんの名作恋愛文学!
林真理子『野ばら〈新装版〉』
週刊文春の連載時から大きな話題を呼んだ、林真理子さんの名作恋愛文学が、新装版で登場です。
宝塚の娘役・千花と、名門一族出身の雑誌ライター・萌は、親友の同級生。花の盛りのように美しい二人はそれぞれに恋愛を謳歌し、幸福の絶頂にあります。が、誰もが知るように、幸福は永遠に続くことはありません。
しかし忍び寄る不幸の影を知っているからこそ、若い頃の恋愛はいや輝きを増すのも確かで、二人の幸福が翳りを帯びていく様は、さすが恋愛文学の名手と唸ります。
林さんならではの、上流階級の絢爛な描写もお楽しみください。(担当KN)
★書名にひるまず、堂々と読んでください!
東海林さだお『オッパイ入門』
長らくご愛読いただいている、ショージ君の人気エッセイシリーズ最新刊です。
超真面目にオッパイに敬意を払い、タオルのふわふわが好きだと告白し、己の中に存在するケチ根性と対峙し、中退した早稲田大学を訪ねて思い出の味にホロリ。今回もチャーミングなショージ節が全開です。
解説は酒場詩人の吉田類さん。
秋の夜長にダラダラちびちびページをめくって、リラックスしていただけると幸いです。(担当AK)
★世界初、ヘタ字をめぐる右往左往レポ!
新保信長『字が汚い!』
著者の新保さんは、西原理恵子さんのマンガにもキャラ化して登場する敏腕編集者。ついでに言えば、灘→東大という優秀な頭脳も持ち合わせています。しかし、天は新保さんに「美しい字」を与えてはくれませんでした。
幼い頃からのヘタ字コンプレックスをこじらせ、50歳を過ぎて、大真面目に「字がうまくなる方法」を探求する新保さん。優秀ゆえに、取材も研究もトコトン徹底しており、それがまた期せずしておかしみを誘います。読み終わると「人間っていいなぁ!」と畳に大の字になりたくなる、そんな一冊です。(担当TI)
★自分一人で発信し、会社に縛られず「自由」に生きていく!
ちきりん『「自分メディア」はこう作る!』
無名の会社員がはじめたブログが、月間200万アクセスを突破! なぜ「ちきりん」はトップブロガーになれたのか――その背景にある5つの戦略が明かされます。
SNSにユーチューブなど、自分一人で発信し、お金を稼ぐことができる時代の必読書。会社を辞めて、何にも縛られずに「自由」に生きていく、自分ブランディングの方法がこの一冊に! (担当SY)
★全20編の短編集が文庫オリジナル、2分冊で登場
スティーヴン・キング 風間賢二・白石朗訳『マイル81 わるい夢たちのバザールI』、『夏の雷鳴 わるい夢たちのバザールII』
近年、作品の映像化が相次ぎ、新作の充実度ふくめ「第二の黄金時代」を迎えた巨匠、スティーヴン・キング。その6作目の短編集『わるい夢たちのバザール』を『マイル81』『夏の雷鳴』の2分冊、文庫オリジナルで刊行されます!
廃墟になったパーキングエリアに駐まる1台の車をめぐって奇想が炸裂するキングお気に入りのホラー「マイル81」で幕を開け、この世に存在しないはずの本が読める電子書籍リーダーの物語「UR」、架空の死亡記事を書くと相手が死んでしまう現象に見舞われた記者の苦悩「死亡記事」、そして世界の終末を静かに描く「夏の雷鳴」まで全20編。
ホラーにSF、レイモンド・カーヴァーに捧げた文芸色の強い作品、とんでもないホラ話に不安に満ちたイヤミス、黒い笑いに透明な悲しみ、そしてもちろんモンスターも!
各編にキング自身が寄せた解説も読みどころ、さらなる洗練と円熟をみせる巨匠の筆の冴えをご堪能ください。
なお10月29日には、キングが息子で作家のオーウェン・キングと合作した大作『眠れる美女たち』が単行本上下巻で発売されます。女性だけを眠りにつかせてしまう謎の疫病により、男たちだけになった小さな町を襲うパニックとカタストロフィを描いた壮絶なパンデミック・ホラーです。こちらもお楽しみに。(担当SN)
★流刑と抑留のシベリアは自由の大地だった! ■学藝ライブラリー
中村逸郎『シベリア最深紀行 知られざる大地への七つの旅』
ロシアのウラル山脈以東に位置するシベリアには、「住所はツンドラ」と記すトナカイ遊牧民から、宗教弾圧に抵抗し続けたイスラム教徒たち、今も活躍するシャマーンまで、多種多様な宗教や文化が、まるで色鮮やかな万華鏡のように共存しています。
本書は4年前に岩波書店から刊行され、メディアで大きな話題になった単行本の文庫化。
厳しいシベリアの辺境の地を気鋭のロシア政治学者が訪ね歩き、今をしたたかに生きる不屈の人々の声を記録した貴重な一冊。文庫用に書き下ろされたコラムやカラー写真も必見!(担当MS)
◇ ◇ ◇
ただいま「文春文庫秋100ベストセレクションフェア」開催中!