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【2021夏特集企画】みんなに知ってほしい! わたしの尊敬する「翻訳・ことばの先人」その2

特集その2では、尊敬する翻訳・ことばの先人についてのアンケート回答を発表します。現役翻訳者の方々が尊敬する翻訳やことばの先人と、尊敬する理由やおすすめ作品。ぜひお読みください。

■尊敬する先人:須賀敦子 (1929-1998)

「イタリアの人々や生活を静かで豊穣な文章で紹介しているエッセイは、何度読み返しても味わい深い。夏目漱石をはじめとする日本文学をイタリア語に翻訳した業績もある一方、貧しい人々を支援するための慈善活動にも携わっていらした。」(実務・出版翻訳者/菊地清香さん)

■尊敬する先人:安西徹雄 (1933-2008)

「シェイクスピア研究の大家であり、名翻訳家であるだけでなく、後生に語り継がれるだろう翻訳関連の名著も残されました。
大学時代の恩師でしたが、シェイクスピア劇の演出・翻訳も手がけられていて、劇が成り立つ翻訳の重要性、息遣いやリズムの重要性を、いつも強調されていました。」(ノンフィクション出版翻訳者/木村千里さん)

■尊敬する先人:吉田健一 (1912-1977)

「二十歳のときに手にした『海からの贈物』(アン・モロウ・リンドバーグ著、吉田健一訳、新潮文庫)を、私は二十代の心の支えとしていました。あちこちに線を引き、ぼろぼろになるまで繰り返し読んだ当時の文庫本がまだ手元にありますが、著者名の表記が「リンドバーグ夫人」、定価240円。時代の流れを感じます。その後、山岡洋一さんが「翻訳通信」で『海からの贈物』の吉田健一訳を取り上げ、具体的な理由を詳しく述べて絶賛されたこともあり、なおさら特別な一冊となりました。」(ノンフィクション出版・文芸翻訳者/神崎朗子さん)

■尊敬する先人:高橋健二 (1902-1998)

「子供のころ岩波少年文庫などの翻訳児童文学が好きで、中でも『飛ぶ教室』を熱心に読んでいた覚えがあります。なにせ子供なもので、どなたが翻訳されたのかということは気にしていなかったのですが、今回のアンケートをきっかけに調べまして、ドイツ文学者の高橋健二氏だということが分かりました。」(実務翻訳者/生方眞美さん)

■尊敬する先人:寿岳文章 (1902-1998)

「翻訳や英文学研究にとどまらず、幅広い分野で業績を残され、国内外の人たちと親交を深めつつ、妻のしづと共に実践的な生き方をされた」(実務翻訳者/asanoha17さん)

■尊敬する先人:柴野拓美 (1926-2010)

「師匠です。下訳の後、共訳が2冊あるのですが、ワープロ専用機MyOASYS2で印刷した原稿が真っ赤になって戻ってきました。それを再度入力しましたが、赤字の方が多かった。
『手書き原稿ではなく、ワープロで印字されているので、直しやすかった。そのせいで、直しが増えたかも……』と後で言われました。これはものすごく勉強になりました。
兄弟子の酒井昭伸と雑談しているときに、この話をしたら『いいなあ。ぼくはできあがった本から勉強していた』とのことでした。」(実務・出版翻訳者/久志本克己さん)

■尊敬する先人:野崎孝 (1917-1995)

「『ライ麦畑でつかまえて』(白水社)の訳を高校1年生の時に読みました。テンポが良く、言葉の一つ一つの収まりが良く、一気に読み通しました。その後すぐに原書を読みましたが、セリフを含めて内容が完全に頭に入った状態でもあったことから、当時の英語の読解力でも途切れることなく読み通せました。サリンジャー作品の訳としては、野崎訳以外は考えられません。」(実務翻訳者/Akiさん)

■尊敬する先人:丸山工作 (1930-2003)

「丸山先生は、生化学分野で多くの著書があり、翻訳書も出している方で、大学~大学院時代の恩師です。研究室では、僕たち学生の研究成果も、英文で学会誌に投稿するのが当たり前でした。そういう環境で学ぶことで、非ネイティブであっても、英語で発信してもいいんだという考え方が身についたと思います。だから、翻訳者になった今、非ネイティブであっても英訳をしてもいいんだと思えています。」(実務翻訳者/渡辺さん)

■尊敬する先人:額田やえ子(1927-2002)

「刑事コロンボ」の吹替で、コロンボ警部のキャラクターが吹替により一層際立つものとなったのは、額田先生のお力だと思っており、尊敬しています。(Jonathanさん)

■尊敬する先人:瀬田貞二 (1916-1979)

「瀬田さんの『指輪物語』の翻訳に出会ったことをきっかけに、翻訳家を目指すようになりました。」(山森きのこさん)

■尊敬する先人:大久保博 (1929-2018)

「大学時代からの恩師です。マーク・トウェインの研究に生涯を捧げ、亡くなる間際まで病気を押して翻訳していらっしゃいました。」(ノンフィクション・文芸出版翻訳者/金井真弓さん)

■尊敬する先人:倉橋由美子(1935-2005)

『星の王子さま』倉橋訳を読み、すばらしい訳文と「訳者あとがき」の作品解釈に感動した。子どもの頃読んだシルヴァスタインの絵本『ぼくを探しに』の自然で親しみやすい日本語も倉橋訳だった。作家として知られるが、すぐれた翻訳家としてもっと知られてほしい。(編集部)

■尊敬する先人:中村保男(1931-2008)

『英和翻訳表現辞典』などの著作から多くを学びました。コリン・ウィルソン著『アウトサイダー』などの訳業も素晴らしいと思います。(ノンフィクション出版翻訳者/児島修さん)

『新編 英和翻訳表現辞典』は辞書にない訳語を考えるためのヒントが満載で、語釈がたいへん勉強になる。このように実践的で役立つ辞典を編み出したのは、翻訳者として活躍した著者だからこそ。(編集部)

回答をお寄せくださった皆さまにお礼申し上げます。すぐれた翻訳の先人達の功績を知ると同時に、回答した方々の貴重なコメントに学ぶところが多くあります。読者の皆さまにも先人の訳書や著書にふれ、翻訳の原点を振り返る機会になれば幸いです。



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