見出し画像

アンケート集計レポート(1)トークイベント編 「これが響いた! ことば、通訳、翻訳 2020年を振り返る~翻訳・通訳、言葉に関するトークイベントおよび本についてのアンケート~」

先日「ほんやくWebzine」で行った、翻訳・通訳、言葉に関するトークイベントについてのアンケート集計結果のご報告を致します。回答をいただいた皆さんに改めて御礼申し上げます。回答数は32でした。

まず、2020年1月1日~11月30日の間に開催された翻訳や通訳、言葉、文学関連のオンラインの講演会、セミナー、ワークショップにどれくらい参加されたかをお聞きした質問への回答は以下の通りでした。

画像1

回答の中では「1~5回」参加の方が一番多く、次に「5~10回」参加が続き、「10~20回」参加と「20回以上」参加の方が同数の3位でした。期間中に全く参加されなかった方は9.4%と一番少なく、何かしらトークイベントに参加された方がほとんどだったようです。
「0回」と回答された方からは、「コロナの影響およびたまたま忙しかった」「自分の専門とする業務に直結するものがなかった」「参加するほどのモチベーションが湧かなかった」という理由が挙げられました。

2020年はコロナ禍の影響で、以前だったら会場に集客して開催されていた講演会やセミナーがオンライン開催に代わることが多かったように思います。オンライン開催になることによって、以前だったら開催地から離れていて参加が難しかった地方や海外在住の方、あるいは映像のアーカイブ化によって開催時間帯にとらわれずに参加ができるようになった方など、これまで参加できなかった方の参加を促すことになったのではないでしょうか。アンケートの回答でも、2020年のイベント参加回数が例年よりも増えたという方が71.0%と圧倒的に多く、「減った」6.5%、「変わらなかった」16.1%を大きく引き離しました。

画像2

さて、イベントに参加された方はどんなプログラムが印象に残ったのか、ご紹介していきましょう。票はバラけたのですが、複数の票が集まったのは以下のプログラムでした。

「いま、これ訳してます」(登壇者:柴田元幸氏/2020年に8回開催/手紙社)

先生の仕事場から翻訳中の作品について聞けるのは貴重でした(こばつさん)

会場の最前列で柴田元幸さんの朗読を聴く感覚を自宅で味わえるなんて夢のよう……と毎月ワクワクしながら拝聴しています。至福の時間です(生方眞美さん)

「出演する通訳〜舞台芸術専門の通訳という生きもの」(登壇者:平野暁人氏/2020年8月1日開催/日本通訳翻訳フォーラム)

平野さんの人柄や軽妙な語り口が魅力的でした(池田治樹さん)

舞台通訳という職業を初めて知り、その奥深さに魅せられました(安達眞弓さん)

「翻訳者のなり方、続け方」(登壇者:高橋聡氏、高橋さきの氏、深井裕美子氏、井口耕二氏/2020年8月24日開催/日本通訳翻訳フォーラム2020)

翻訳者になりたい方やなったけれど進むべき方向がよく分からないともがいている方にエールを送る内容だったと思います。それをよく象徴するのが、高橋さきのさんが口にされた「(後輩には)自力ではしごを上ってきてほしい、自力で上ろうとしている人はわかる、惜しみなく手助けする」という言葉。自分もずっと「上ろうともがいてきた」という自覚がどこかにあったようで「惜しみなく助ける」という言葉に涙腺がゆるみました(勝田さよさん)

(印象に残った言葉は)「はしごをかけて(上がってくる)人を助けない人はいない」(吉田博子さん)

「アートトランスレーション:『通訳は必要か?』から始める創造の現場」(登壇者:田村かのこ氏/2020年8月26日開催/日本通訳翻訳フォーラム2020)

田村さんの明快な解説や体験談が印象的でした(池田治樹さん)

アート専門の通翻訳者集団を結成し、アートの発展に貢献すると同時に通翻訳者の価値を自ら創りだし、向上させるという姿勢に感銘を受けました。アーティストの創造⾏為に寄り添い、⾃ら表現の⼀端を担う考え方は、どの分野にも勉強になる話でした(こばつさん)


「文学作品を味わう―英文法をベースにヘミングウェイを読む」(登壇者:倉林秀男氏/2020年9月18日開催/JTF翻訳セミナー)


「次に何か来るのでは」と予測させるのが過去進行形。過去進行形が単純過去の背景になる(mohariさん)

英米文学には時間の概念が重要であることが理解できた(匿名さん)

文法を読み解き情報が提示される順番(語順)にも目を配ることで、英文(特に小説)をこんなにも深く豊かに読むことができるのだということが新鮮な驚きでした(勝田さよさん)

「紆余曲折がありました~私のこれまでと今、そしてこれから」(登壇者:夏目大氏/2020年11月11日開催/JTF Online Weeks 翻訳祭29.5)


「翻訳は原著者の代わりに文章を書く仕事。書かなくてはいけない文章を書く文章力が必要」という言葉が印象的でした。(とぅみぃさん)

印象に残った言葉:「校正者と対立した場合、とことん話し合って落としどころを付ける。校正の人の言うことはたいてい的を得ている」(中島礼子さん)


「言葉が海を渡るとき ~翻訳とは何か~」(登壇者:伊藤比呂美氏、佐藤=ロスベアグ・ナナ氏/2020年11月13日開催/津田塾大学英語英文学科)


中原中也の英訳の話題、近代文学の話題を通じて翻訳や言葉の原点を考える機会になりました(こばつさん)

佐藤=ロスベアグ・ナナ氏が言われた言葉『翻訳に向き合うときに大事なことは、自分にかかっているバイアスを理解すること』が印象に残っています(asanoha17さん)

「翻訳力の基礎~プロが紹介する翻訳スキルの学び方~」(登壇者:駒宮俊友氏、松丸さとみ氏/2020年11月14日開催/JTF Online Weeks 翻訳祭29.5)

印象に残った言葉と感想:「何を調べたか」よりも「何を考えたか」の方が重要」、「説明スキルの重要性」(ほかの翻訳関連セミナーでも必ず言われるが、在宅勤務になって特に実感した。今まで口頭でふわっと説明してたが、しっかり語源化することで、逆に自分自身の訳文を客観的に見れるようになったので、この辺りの話はとても響いた)。(どんくんさん)

翻訳に必要な5つの基本スキル&説明スキルに関する内容はすべて印象に残った(中島礼子さん)

印象に残った言葉:「翻訳は自分と異なる背景/認識の相手にも届く言葉を紡ぐ仕事」(asanoha17さん)

洋書の森ウィークエンドスキルアップ講座「一人の訳者ができるまで」(登壇者:夏目大氏/2020年11月28日/日本出版クラブ「洋書の森」)


「書かれたとおり」に訳すのではなく「読んだとおりに」訳すことを心掛けている。(なつさん)

題材となる英文を、聴講前にあらかじめ訳出できるウェビナーであったため、講義内容をよく理解できた(匿名さん)


上記のプログラム以外には、以下のようなプログラムについて感想を残していただきました。

「ニュース翻訳 基本のき~まずはこれだけ知っておこう」(登壇者:松丸さとみ氏/日本通訳翻訳フォーラム2020)

ニュース翻訳の演習をやってみて楽しいと感じた(ナマケモノさん)

「英訳の醍醐味を味わおう~遠田和子と岩渕デボラの翻訳談義」(登壇者:遠田和子氏・岩淵デボラ氏/サン・フレア アカデミー)

これしか受講していないが、「図書館に残る仕事がしたい」という一言にはうなずきました(もこさん)

Bridging the Gap 64 Hours Medical Interpreter Certificate Course(登壇者:Yuka Lysiuk 氏/The Cross Cultural Health Care Program)

米国のコースで倫理などについて多くの時間を割いていたのが印象的だった(sozaiさん)

「冠詞aを通すと見える、英語話者の「モノ」の見え方」(登壇者:時吉秀弥氏/日本翻訳連盟)

認知言語学の考え方を翻訳に応用する方法を知ることができた(匿名さん)

静岡県災害時外国語ボランティア研修会 災害時多言語支援(登壇者:ナレス・マハラジャン氏/静岡県国際交流協会)

日本在住歴の長い氏による災害時の外国人支援についての話では、言葉の壁だけでなく相手の文化宗教を理解しないと支援できないという言葉、また英語が通じない外国人も日本には多くいるので、自治体の正式発表を『やさしい日本語』にする必要がある、という話が印象的でした(Sunnyさん)

「オンライン特別講座『二十年後』」(越前敏弥氏/オフィス翻訳百景)

普段の仕事では実務翻訳をしておりまして、自主的な文芸翻訳の勉強会には参加したことがあるのですが、先生から講義を受けるのは初めての経験。なので毎回目から鱗がポロポロと落ちまくる、大変有意義な講座でした(生方眞美さん)

「ことばの海をおよぐ −翻訳家にとっての『翻訳』とは」(登壇者:ドミニク・チェン氏/トラNsレーショNs展)

ドミニク・チェン氏が引用されたケン・リュウの言葉「あらゆるコミュニケーション行為は、翻訳の奇跡だ」が印象に残っています(asanoha17さん)

「翻訳者目線で見た翻訳エージェントの存在意義」(登壇者:山川早霧さん/日本通訳翻訳フォーラム2020)

従来から山積していた疑問である(1)クライアント直でなくエージェントを通す理由、(2)エージェント毎に仕事プロセスが違う理由、(3)エージェントの存在意義、に対し痒いところは全部かいて、メンソレ(もとい、鎮痒消炎薬)まで塗ってくれた救済セミナーです。講師のプレゼンテーション、コミュニケーション力の高さ(核心をストレートに語る)に、強い説得力を感じました(門脇恵実さん)

「悪癖を矯正!ノートテイキング講座」(登壇者:マイヤーズ・若菜氏/日本通訳翻訳フォーラム)

通訳の際にはことばを覚えるのでは無く、内容を覚えてそこから言葉を出すということが自分にとっては発見だった(sozaiさん)

「文芸翻訳のツボ&出版翻訳の現在」(登壇者:越前敏弥氏/日本通訳翻訳フォーラム2020)

プロとしての自覚を持つことの大切さを再認識する非常によい機会でした(とぅみぃさん)


「「テンプレート」を使って罠に陥らない翻訳を」(登壇者:加藤今日子氏/JTF Online Weeks翻訳祭29.5)

自分の判断を信じる/「テンプレート」で心を整える→現状を認識して心の安定を図る部分(自分も在宅勤務を始めて精神的にきつくなったことが何度かあったので、非常に参考になった)(どんくんさん)


「語の意味論(登壇者:松本曜氏/東京言語研究所 夏期集中講座)

辞書に載っている語義・語釈は十分なものではなく、極めて限定的な意味しか書かれていないことがわかり愕然とした(川月現大さん)


「翻訳者・通訳者・通訳ガイドがともに考える 『コロナの時代』をどうサバイブするか?」(登壇者:島崎秀定氏、井口富美子氏、関根マイク氏、美野貴美氏/日本通訳翻訳フォーラム2020)

井口さんと同世代として、人生設計が同じ方向を向いていることを嬉しく思いました。自分がぼんやり考えていることが肯定されたような、前を向いて進もうという決意をあらたにしました(匿名さん)


「コロナ禍での翻訳業界の実情と、今後の展望」(登壇者:アレクサンダー・ジェフリー・ファレル氏、アリソン・シグマン氏、宮原健氏/JAT日本翻訳者協会)

海外エージェントの求人応募時の注意点として、登録すべき翻訳者ディレクトリー、プロフィールの魅せ方とこまめな更新方法、そしてプロフィールの公開媒体の選び方を、3人のパネラーが自分の経験に基づき細やかに説明してくれました。衝撃的な発言は、コロナ禍で仕事が減った分野もある、その際は思い切って分野を変える、または翻訳を離れてみることも大切、という意見でした(門脇恵実さん)

「芸能通訳者の日常、心得〜映画を広げる、映画を伝える」(登壇者:今井美穂子氏/日本通訳翻訳フォーラム2020)

1回の通訳に臨むにあたって用意された作品や書籍の写真を見て圧倒されました。スコセッシ監督に作品リストを手渡してた状態で通訳に臨まれたエピソードもインパクトがありました(とぅみぃさん)


「改めて考えよう、翻訳に必要な力」(登壇者:高橋さきの氏、井口耕二氏、岩坂彰氏/「高橋・井口・岩坂三氏による翻訳セミナー」運営事務局)

後半の対談で、一人が異論を出すことで議論が深まり、議論しながら共通点を見いだしていくさまに(話がどこに向かうか分からないという期待も加わり)いつになくドキドキしました(勝田さよさん)


「色deチェック 定期セミナー」(登壇者:新田順也氏/みんなのワードマクロ)

極力メモを取らずにいいように工夫されていて、マクロでここまでできるのかと驚いた(吉田博子さん)


「通訳・翻訳にいつかは役立つ世界の時事問題を勉強する会【遠隔・全3回】 」(登壇者:松丸さとみさん/日本会議通訳者協会)

世界のホットな時事問題を3回に分けて学ぶ会。「勉強会」という名称ですが講師による課題出題&添削と講評があり、純粋な勉強会の枠を超えています。(中略)特に印象に残ったのは、以下のことでした。「耳障りのいい、美しい日本語に引きずられ、本来の「原文」どおりの「訳文」から乖離していないか」「記事初出の人物が「肩書き」のみのとき、要注意。特に行政における大臣や官僚の区別。”人物はたいてい、記事の後に再び言及される”ので、ともかく記事を最後まで読み通してから訳すこと」(門脇恵実さん)

Margaret Atwood and Jia Tolentino talk Harper’s Letter and horoscopes at New Yorker Festival(登壇者:Magaret Atwood氏/The New Yorker)

「わたしが『侍女の物語』を書いた一九八五年ごろ、ヨーロッパ諸国の人たちはアメリカがこんな方向に――右傾化、全体主義化、独裁政権――進むなどと決して、決して、決して信じようとしなかったのです」(鴻巣友季子さん)

The Cheltenham Literature Festival Sayaka Murata Exclusive Recorded Interview at Cheltenham Literature Festival + LIVE Q&A(登壇者:村田沙耶香氏/在英国日本国大使館)

「みんなが怖いおまじないにかかっているみたいに見える」(子どもを作って当たり前という社会について)(鴻巣友季子さん)

「ノンフィクション出版翻訳の素晴らしき世界 ~その特徴と制作の流れ、翻訳者に求められるもの~」(登壇者:児島修氏/日本通訳翻訳フォーラム2020)

(「日本通訳翻訳フォーラム2020」のセッションをいくつも聴講したが)児島さんの講演はその中でも一段とご本人の情熱が伝わってきて、感銘を受けました(生方眞美さん)

ほかにもご感想を寄せていただいたプログラムがあったのですが、スペースの関係でご紹介は以上とさせていただきます。

皆さんの回答を読ませていただくと、翻訳や通訳の仕事のスキルアップに直接役立ちそうなセミナー、ひとりの翻訳者や通訳者としてのキャリアパスに示唆を与えてくれそうなプログラム、言葉や翻訳、通訳そのものについて深く考えさせてくれたセッションなど、2020年はオンライン開催の急増も相まって、有意義なイベントの開催が多かったことがわかりました。

書籍編へ続きます

「ほんやくWebzine」編集チーム(佐藤直樹)

よろしければサポートお願いします! 翻訳や言葉に関するコンテンツをお届けしていきます。