真砂女「人悲します恋をして」
新橋汐留の小粋な蕎麦屋、
成富の壁に掛かった短冊に
鈴木真砂女の自筆の句が
凛とした佇まいを見せている。
海軍士官に不倫の恋をし
旅館の女将を投げ出した真砂女。
最初の結婚では夫が失踪、
二度目は死んだ姉夫の後添え。
本当の恋を知った真砂女は
実らぬ恋と知りつつも、20年
一途に思いを募らせ、遂に
50歳で離婚、銀座に飛び出した。
小料理屋「卯波」の女将となり、
96歳死ぬまで一心に働き続けた。
「あるときは船より高き卯浪かな」
俳句を詠み、許されぬ恋も続けた。
「羅(うすもの)や
人悲します 恋をして」
自分だっていつもいつも
切なく哀しかったに違いない。