再発の危険、執行猶予
脳外科の担当医師が言う。
パソコンのディスプレイを僕に向け、
カテーテルで首の根元から造影剤を入れた
MRI検査の結果を3D画像で見せる。
脳にはり廻る血管が赤く示される。
脳はくるくると回転し、拡大され、
問題箇所が映し出される。
「ここがとても細いのです」
確かに急に細くなっている。
「血栓がここで詰まったんですね」
「運良く、詰まった後に通り過ぎ、
軽症で済んだわけですが」
「この細くなってしまった部分で
再度詰まる可能性があるわけです」
「血管は太くならないのですか?」
「それがならないのです」
血液さらさらの薬など毎日8錠、
塩分を1日5g以内に抑え、
水を2リットルも飲み、
禁酒禁煙を守ったとしてもだ。
「再発の可能性は2年間で12%。
9人に1人は再発しています。
でも、今は手術をせずに
経過観察していきましょう」
衝撃が走る。手術の可能性もあるのだ。
となれば、頭を割ることになる。
「再発したなと思ったら、
すぐに救急車を呼んでください」
まさに執行猶予を言い渡されたのだ。
再発可能性の一番の有無は
ストレスにあると断言していい。
もはやハードに仕事はできない。
始めた瞬間から天職だと思った仕事。
ハードでも楽しかった仕事。
それがもうできなくなるのだ。
どのように暮らしたらよいかわからない。
医師は優しく微笑む。しかし、
もうその顔を見ることはできない。
下を向き、そして上を見る。
病院の天井は真っ白だった。