香月泰男の鎮魂画

香月泰男という画家を
初めて知った。
山口県に生まれ、
東京芸大に入学。
郷里で教師をしていたが、
太平洋戦争に招集された。

戦争は終わったが、
シベリアに抑留され、
セーヤ収容所で強制労働。
仲間たちは病で死に
凍えるような寒さで死に、
食べものがなく餓死していく。

地獄のような日々を
瀕死の状態で生きながらえる。
ほうぼうの体で日本に戻り、
郷里の美術教師に復職した。
ようやく気持ちが落ち着くと
抑留生活を絵にしていった。

仲間たちのやるせない
魂の叫びが絵に表される。
沈黙しているのに
慟哭が聞こえてくる。
涙はこぼれてないのに
心は泣いているのだ。

シベリアシリーズは
土や灰を使って描いたような
生きながらの墓場の情景だ。
「助けてくれ、死にたくねえ、
日本に戻りてえよ」
そんな声が聞こえてくるのだ。

凄い絵を見てしまった。
でもそれが戦争なのだろう。
戦争が終わっても
人々はまだ戦中だった。
戦争から逃れられない。
怖ろしいほどの光景。

戦争の悲惨さを伝えたい。
絵描きの自分はそれを
やらなければ死ねない。
生きながらえた者の
使命だと考えたのだろう。
香月は62歳で亡くなった。