鹿の哀しい鳴き声

ギヨーム・アポリネールの詩に
「Automne malade」、「病める秋」がある。
秋の物悲しさを詠ったものだが、
cerfという鹿の鳴き声が出てくる。

遠い山の中で発せられる牡鹿の
「ピーッ」という鳴き声は
離れた牝鹿を求愛するものだ。
それだけに愛慕が声に溢れている。

日本では万葉の頃から詠っている。
「奥山に 紅葉踏み分け 鳴く鹿の
声聴くときぞ、秋は哀しき」は
百人一首の猿丸太夫の有名な歌。

愛する女性に逢いたいが逢えない。
秋の奥山の牡鹿の鳴き声に
哀しい自分の境遇を重ね合わせた。
松尾芭蕉や正岡子規などは俳句にしている。

フランスの鹿も日本鹿と同様に
物哀しい鳴き声を森の中で発する。
アポリネールは秋が深まり、
木の葉が舞う頃を鹿の声とともに悲しむ。

アポリネールは詠っている。
「Aux lisieres lointaines
Les cerfs ont brame」
「遠い森の外れで鹿が鳴いた」