ベートーベン交響曲第九番

ベートーベンの第九を

ドイツ語で歌いたかった。

それは学生の時からの

やんわりとした夢だった。


20年ほど前、とうとう

その気持ちが高まって

初心者でも入れてくれる

合唱団に入ることができた。


パートはテノールになった。

最初の「ダイネ」だけでも

とても高い音で難しい。

「頭の後ろから前に声を出す」


男性の歌い手は少なく

しかも初心者が多く、

毎回、「ダイネ」ばかり。

ちっとも先へ進まない。


しかし、あるとき、

僕らの声が天井を揺さぶった。

ぶるぶると震えたのだ。

先生の笑顔と僕らの驚き。


それから一気に先に進んだ。

「フロイデ!」で始まり

「ゲッテルフンケン」で終わる。

全員で歌声を合わせる。


年末の演奏会当日。

上野文化会館大ホールは

3階席まで満員だった。

オーケストラの後ろに立つ。


第3楽章が終わり、いよいよ

最終楽章が始まった。

緊張が最高潮に高まり、

陶酔に変わっていく。


指揮者のタクトを見ながら、

声を合わせ、力の限り歌った。

歌い終わったとき、

魂は天に昇ったかに思えた。


割れんばかりの歓声と拍手。

涙が溢れた。頬を伝わった。

感動で体が痺れている。

ベートーベンに感謝!


少し恥ずかしいと思っていた合唱。

友人にやっていると言えなかった。

でも、今は違う。胸を張って言える。

スポーツと同じくらいいいものです。