もみの木のツリーテラス

ミスター・サカイがこしらえた
ツリーテラスで夕時を過ごした。
もみの木にロープをめぐらせ
太い枝に板を乗せた空中テラスだ。

地上ではミスター・サカイが
嬉しそうに僕を見上げている。
「どうだい、気分は?」
「最高です」と僕は応える。

ミスター・サカイはスマホで
大好きだというロックバンド、
スティーリー・ダンをかける。
「いいよねえ、このサウンド」

テラスにはミスター・サカイが
読みかけのマーク・トウェイン著
「ハックルベリー・フィン」が
虫眼鏡とともに投げ出されている。

「そのテラスでその本を読むとね、
子供のころに戻っちゃうんだ」
孫のために造ったというテラスが
今や自分のための秘密基地なのだ。

「すべてを忘れられるんだよ。
世の中の喧騒が消えてなくなる。
世界は僕だけのもんだとね。
輝く未来が開けているってね!」