サンルイのロックグラス

若い頃はウイスキーを

ロックで飲むのが好きだった。

「水割りなんて飲めるかい。

薄めるなんて男がすたるぜ」

イキがっていたのかもしれない。


銀座に季立というバーがあり、

そこのロックグラスは

どれもこれもバカラだった。

重厚感があり、輝きは宝石の如く。

ウイスキーが何倍も美味く思えた。


自分用のロックグラスが欲しい。

いろいろ見て歩いているうちに、

何の変哲もないのになぜか

惹きつけられるものがあった。

それがサンルイだった。


スタッフが話しかけてきた。

「ルイ15世、16世が愛した

フランス王室御用達のグラスです。

鉛の含有量が多いので、

氷を入れたときの音が違います」


並んでいた中で特に目を惹いた

金縁のロックグラスを購入した。

氷を入れ、特に好きなスコッチ、

ラガブーリンを注ぎ。グラスを回す。

すると、氷の奏でる音が……。


チリン、チリン、チリン。

可憐で儚く優しい響き。

その音が僕を三百年前の

フランス王室に連れて行く。

悠久の時を奏でるロックグラス。

今もこのグラスを愛してやまない。