懶惰の人

「懶惰」と書いて「らんだ」と読む。
怠けることをそう言うなら怠惰と同じか。
ただ、怠惰と異なるのは、単に怠けるのではなく、
気怠く物憂がることであるらしい。
肉体的だけでなく精神的な側面があるようだ。

吉田兼好の『徒然草』は懶惰の気分だろうか。
「つれづれなるままに、日くらし、
硯に向かいて、心にうつりゆくよしな事を、
そこはかとなく書きつくれば、
あやしうこそものぐるほしけれ」

この「奇しうこそ物狂ほしけれ」が好きだ。
何もする気が起きずにぼうっとしていながら
何やら心の中がざわざわとざわついている。
妙に気が狂ったようなおかしな気持ちになる。
心の中に妖怪が棲みついたような気分。

フランス人ならさしずめアンニュイだろうか。
気怠いのに、呆けてもいるのに、なぜか、
頭が冴えているような冷ややかな感じ。
そんなときは敢えて動き出す必用もあるまい。
「あやしうこそものぐるほしけれ」でよし。