破滅の作家、ネルヴァル

フランス文学史の授業で
教授が僅かに触れられた
ジャラール・ネルヴァル。
幻想小説家ということが、
読もうという気にさせた。

中村真一郎が翻訳した
『火の娘』が目にとまった。
昭和51年発行の新潮文庫、
文字が大変に小さく尚かつ
旧書体ばかりの翻訳文。

プルーストやアポリネール
リルケらに多大な影響を与え、
アンドレ・ブルトンの
「シュルレアリスム宣言」に
登場するネルヴァルである。

『火の娘(les Filles du Feu)』は
娘たちの名前をタイトルにした
短篇集であるが一つひとつは
まったく別の物語であり、
それぞれとても興味深い

特に冒頭の「シルヴィ」は
過去の恋愛が夢になって現れる
不思議な恋物語である。
『失われた時を求めて』の
着想はこの小説であるのは明白。

「エミリイ」はプロシアとの
戦争後に結婚した不幸な女性の話、
「ジェミイ」は原住民に囚われた女性、
英国娘「オクタヴィ」への恋心の物語、
最後は美の女神「イシス」の話。

中村真一郎は東大の学生時代に
この作家を発見して訳しだし、
囚われの身になったという。
思いつくままの筆記がもたらす
波乱に満ちたストーリー展開が
シュルレアリスムの先駆なのだろう。
ネルヴァルは47歳で縊死した。