稲垣足穂

稲垣足穂という
小説家を知っていますか?
1900年生まれの小説家、
抽象的で飛行と機械好き、
エロティシズムもあった。

三島由紀夫が足穂の仕事に
「世間はもっと敬意を払うべき。
昭和の最も微妙な花のひとつ」と
賛辞を送っている。
ならば代表作を読んでみよう。

『一千一秒物語』を読んだ。
月と星がテーマの何とも
奇っ怪で不思議な話。
本人は「一種の文学的絶縁と
ニヒリズム」と呼んだ。

A MOONSHINE
Aが竹竿の先に針金の環を取り付けた
何をするのかと尋ねると 三日月を取るんだって
ぼくは笑っていたが きみ おどろくじゃないか
その竿の先に三日月が引っかかってきたものだ

友達がお月様に変った話
ある夜 友達と散歩しながら お月様の悪口を言った
友だちが黙っているので「ねえそう思わないか」
と云いながら横を向くと お月様であった
逃げるとお月様は追っかけてきた

星をひろった話
ある晩黒い大きな家の影に キレイな光ったものが落ちていた
むこうの街かどで青いガラスの眼が一つ光っているだけだったので
それをひろって ポケットに入れるなり走って帰った
電燈のそばへ行ってよく見ると それは空からおちて死んだ星であった
なんだ つまらない! 窓から捨ててしまった

ともあれ3つの話を書き移したけど変でしょう。
芥川龍之介はこの作品に言葉を寄せた。
「大きな三日月に腰掛けているイナガキ君、
本の御礼を云いたくてもゼンマイ仕掛の
蛾でもなけりゃ君の長椅子には高くて行かれあしない」

さあて、稲垣ワールドは
まだまだ果てしない宇宙であろう。
「チョコレット」「星売る店」
「鶏泥棒」「死の館にて」など
他の短篇も読んでみよう。