最後の一投

「これが最後、思い切って」
そう思って投げた6投目、
大きな丸い体をゴム毬のように
弾ませて放った槍は空に向かい、
グイグイと突き抜けていった。

ブダペストで行われた世界陸上、
女子やり投げ決勝に登場した
北口榛花は5回投擲し4位。
前世界陸上は銅メダルだったが、
今回はメダルなしかに思われた。

北口の槍は65mのラインを越え、
突き刺さった所は何と66m73。
ピョンピョン跳ねて喜びを爆発。
トラック&フィールド種目で
日本女子初の金メダルを獲得した。

山崎一彦監督は自分の両手を
北口の両肩にかけて泣き出す。
「嬉しいよ、嬉しい」と男泣き。
「止めて、泣きそうになる」と
北口は笑顔で大笑いだった。

最後の一投で金メダル。
ドラマだって感動するような
ラストシーンが現実なのである。
いつも明るい北口だからこそ
起こった奇跡なのだろう。