過去の思い出

僕が過去のことを書くとき、

その過去は思い出そうとして

思い出した事柄ではない。

あるとき、ふと思い出した

懐かしい思い出である。


すっかり忘れていたことが

何かの弾みで思い出し

そのときに懐かしいという

感情がふわっと自分の中に

湧き上がってきたものだ。


過去の思い出は

そういったことから

まったくの偶然によって

自分の頭と心の中に

蘇ってきたものである。


それもあるところだけ、

一部分だけが思い出されたり、

嫌な部分が排除されて、

良いところだけだったり、

逆に嫌な情況のこともある。


夢や幻のようでもあり、

現実のことのようでもある。

混沌とし、困惑もすれば

恍惚に浸ることもある。

思い出とは不思議なものだ。


マルセル・プルースト、

『失われた時を求めて』の

「紅茶に浸されたマドレーヌ」で

過去が一気に蘇るシーンは

僕の思い出の浮上に即応する。