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ベッドタウンと研究者

 今日は、物永君と恵庭の「花の拠点 はなふる」で行われた縄文土器づくり体験に参加した。あらかじめ丸められた土を掌で転がしながら、空気を抜いて、台の上に置く。その丸まった土の真ん中に親指で穴をこじ開け、少しずつその穴を広げていく。その作業はどこに辿り着くか分からず、終わりどきを模索しながら延々とかたちを整えていく。すると、かなりいびつながら、器らしきものになっていく。この器の内側を広げていく作業は、時間を忘れて、半永久的に続けることができるように思えた。
 そこから、物永君とは身体の内側の話になり、食べ物として何を摂取するかだけでなく、他者からどんな言葉を摂取するかで、人間の体調は左右されるという話へと展開していった。棘のある言葉は、実際にちくちくと人の心に棘をさす。
 ドライフィグに関心のある物永君は、北大の食物生理学研究室でアスパラガスの研究をしていることを初めて聞いた。一方の私も、自分自身の故郷不在感と体調不良の関係について考え続けている。どの場所に身を置くかだけでなく、どんな人間とどんな言葉を交わすか、それらの全てが、内側の体調を左右する。
 そういえば、昨日の大学の授業の冒頭で、受講生の言葉(「旅日誌」を題した授業アンケート)を、かれらの目の前で一つずつ朗読していったら、とたんに身体が熱くなって、一時期どうなることかと思った。それは過度に温められた室温のせいだけではない。授業が前半を折り返す時期になり、学生たちから言葉が溢れ出して来たのが、あまりにも嬉しくて、その言葉が波のように私に押し寄せてきたからだと思う。
 恵み野駅への帰り道、そんな話をしながら、少し遅めの昼食をとるため、「手打ちそば 思君楼」へと入る。二人とも冷たいたぬきそばを頼んだ。

 太い麺からは、そばの滋味深い味がどろどろと口の中にひっつくように押しせ、二人して夢中で食べた。物永君は「久しぶりにこんなにうまいそばを食べた」と言っていた。
 店の壁には、そばの実の構造、つまり「内側」の断面図の模式図を描かれたポスターが貼ってあった。その中心部にある「胚芽」。それは生命の根源にあって、生命を形成するもとになる部分である。私は、すぐさま発生生物学の分野で出てくる「オルガナイザー」を思い出した。胚発生における誘導の役割を果すとされるオルガナイザー。その物質の存在意義は、いのちといのちをつなぎ調整するという、とてもニュートラルなもののように思える。私は、まったくの門外漢(いや、実はそうではないのかもしれない)だが、私のフェス主催者研究、つまりオーガナイザー(organizer)研究は、最終的にはこのオルガナイザーへと行き着くと考えている。
 社会運動でしばしば使われる「オルグ」という言葉。ウェブページのアドレスでも見られる「org」。生命体として、いろんなもののあいだを漂いながら、その関係を調整すること。それは自分自身がここちよく生きることで、まわりもまた心地よくなり、次の命が生まれる連鎖に繋がることだと思っている。そのような港としてのhomeport。それを、物永君との言葉の交換から実感することのできた一日だった。(担当:山崎)

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