熊本レポート|旅は道づれ、世は情け
熊本ゼミ合宿2日目は、涌蓋山のふもとにある「わいた温泉」へ向かった。山肌や側溝など、いたるところから湯気が立ち上っている、まさに温泉郷。私はこれまで、蔵王温泉、赤湯温泉、土肥温泉、箱根温泉などいくつかの温泉地に行ったが、そのどれとも違うパワーを感じた。
わいた温泉では、コイン式貸切温泉を楽しんだ。500円玉を入れると、からの湯船に天然温泉が入り、新鮮なお湯を楽しめる。私にとっては初めての体験。「岩露天」「檜露天」「特別室」など6つのお風呂があったが、ここは一番景色のよさそうな「展望室(かわせみ)」を選んだ。受付を済ませ、一番奥のお風呂へ向かった。
山崎さん、宮崎くんと部屋に入ると、3人とも「おぉー、すごい!」と声を上げてしまった。お風呂の中は、最近リフォームされたようで、とてもきれい。浴槽は2つあり、一つは普通の深さ、もう一つは寝ながら入れる浅いものだった。
一通り風呂内を眺めた私たちは、浴槽に栓をして、脱衣場の壁につけられた装置に、500円玉を6枚投入した。最後の1枚が入ると、すぐに蛇口からお湯が出てきた。5分ほど待つとお湯がたまった。
早速みんなで湯船につかる。お湯の色は透明で、とても新鮮だった。しばらく入っていると、程よい温度で体がほどけてくる。
湯船の横の窓は開けることができた。窓から外を見ると、そこには絶景が広がっている。展望室の名に違わない景色だった。
温泉につかりながらいろいろな話をしたが、内容はよく覚えていない。むしろ、皆が温泉に身体をゆだね、つい黙り込んでしまった沈黙の時間のほうが、強く記憶に残っている。この沈黙の時間は、会話よりも雄弁だったと思う。
皆が同じ時間を共有しながら、のんびりと時間を過ごす。ゆっくりと孤独に思考を巡らせる。時にその思考が、ぽろっと口をついて出てくる。山崎さんや宮崎くんが、それを拾って、ことばをつけ足してくれる。普段とは違うリズムでのんびりと、途切れながら進む会話は、いつもと違うことばや思考を生み出してくれるような気がした。
そう考えると、温泉は異界への入り口なのかもしれない。
仲間と温泉に入って、孤独に思考を巡らせる。これまでの凝り固まった思考が解きほぐされ、新たな形へと組みなおす素地が整う。ほぐれた状態で行う会話は、自然に、そして穏やかに私たちの考えを組みなおしていく。普段とは異なる、異界としての思考へと、私達をいざなう。
身体も思考も、凝り固まったら温泉に行くと良い。健康になれる。
これが、私が熊本ゼミ合宿で学んだ、大切なことだ。
(田中:湖畔の制作室 記)
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