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PERCHの聖月曜日 68日目

直哉日記

大正十五年二月八日

作家は書くといふ事で段々人生を深く知るより道がない、書いて見て初めて自分がその事をどの程度に深く知つてゐたかかが判然として来る。書いて見て如何にその事が本統の行ひでなかつたかといふ事も分かつて来る 深く書いて見る事が必要だ、深く書いて見なければその事は分からない

人は段々孤独になるのが本統のやうだ、その人の生活が孤独にならないのは生活が深まらない証拠である しかも孤独になつて行くと同時にそれが多くの人々によつて益々親しまれて行く、偉い人間の仕事は総て、左うして弘通(ぐつう)するやうに思ふ 少なくとも芸術家の生活は左うあらねばならぬやう思へる 孤独といふ意味未だ尽せぬが孤独にして実は孤独でない生活。交際家が非常に賑やかに暮らしながら実は全く孤独であるといふその反対の意味なり

「山科の記憶」てこずる

精進 努力 明智 温愛 自由

何かの意味で自分の神を持たぬものは進めない 神といふ言葉余り愉快ではないが兎に角神を恐れぬ者は堕落する

神とか真理といふ古臭い名ではないものでシンボル欲しい

ーーー『文芸読本 志賀直哉』河出書房新社,昭和51年,p24

Sugar Loaf Islands, Farallons
Carleton E. Watkins
1868–69

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