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鉄道マニアの少年に教わった小さな幸福論

「こんなこと覚えたって何もなんねーよ」

となりのシートで、おじさんがつぶやく。
その瞬間、私の背中の芯が一段と熱くなったのは、ここがサウナだからという理由ではない。

おじさんのつぶやきの発端はそこに設置されたテレビだった。
ゴールデンと呼ばれる時間帯に放送されるよくあるバラエティ番組。

内容は、鉄道マニアの少年とお笑い芸人のクイズ対決だった。
両チームとも自分の好きなものにかける情熱が、画面越しからも伝わってくる。サウナで滴る汗を拭いながら、微笑ましく画面を見つめていた。

そんなクイズが進む中、少年チーム側の男の子がクイズの回答で、地下鉄の
英語の車内アナウンスを流暢に唱えたのだ。
本物を聞いたことのある私だから、言える。
これは完コピというやつである。非常に感心した。
そしてなによりその少年の「鉄道愛」が伝わってきた。

その瞬間に冒頭の、おじさんの一言である。
もう思わず、有名歌手のヒット曲よろしく「ちがう、ちがう、そうじゃない」と歌いながら、たたみかけたくなった。

きっとサウナという高温の非日常的な空間が、私の交感神経を刺激しこんな反応になったのだろう。

じゃあ何がちがうのか。
そうじゃないのか。

地下鉄の英語アナウンスを暗記し、披露すること。
おじさんのいう「何もなんねーこと」なのか。
いやちがう、やっぱりちがう。
その場で持っていたハンドタオルを横断幕にしてデモ行進したくなるくらいだ。

その少年は言うまでもなく、鉄道を愛している。
愛するあまりにアナウンスを完コピするに至ったのだ。
これは立派な人生の成功体験であり、この先いつか自分を支えてくれる
自信のカケラになるのだ。

少年はなぜ車内アナウンスを暗唱できたのか。

「内発的動機づけ」という言葉がある。

これは、物事に興味や感心を持つことで、達成感や満足感を得たいという
内面的な要因で動機づけられるものである。

テストで100点を取ったら、おこづかいをあげるといった「外発的な動機づけ」とは反対になるものである。
今回の少年の鉄道に関する知識を貪欲に吸収する姿勢は内発的な動機づけから来ている。親から強制されたわけでもなく、努力して覚えたものでもなく、自分の興味づけからとことん夢中になって築き上げたものである。

筆者は健康経営コンサルタントとして、人材育成の観点からも
ハイパフォーマンスの人材の共通項を探求している。
現場に入って話を聞いていると、業種業態問わず、管理職の方が必ずといっていいほどこぼす悩みがある。

「部下のモチベーションをどうやって上げていいのかがわからない」

逆にいえば、モチベーション、つまり動機づけがしっかりできている人材になればどんな業界でも活躍できる可能性がぐっと上がることを示している。


実際、内発的動機づけで働ける環境では非常に幸福度も高いと思われるのが
筆者の実感である。

地下鉄アナウンスの少年のように、自分の興味・感心といった要因から、沸き起こるモチベーションで、成功体験を経験していることは武器になるし、人生の満足度を高めてくれる。

・野球が好きだから、プロ野球選手になりたい。
・お菓子が好きだから、パティシエになりたい。
・鉄道が好きだから、車掌さんになりたい。

幼い子どもたちに将来の夢を聞くと、自分たちの興味のままに教えてくれる。そのすべてが希望どおりにかなうわけではないし、関心の対象が移ることもあるだろう。

それでも自分の感情からこみ上げて、取り組んだことでの幼い成功体験は、その先の成長に大きく寄与する。そのとき培った「自信のカケラ」が他のことで応用がきく。

・自分の好きなプロ野球の球団選手を全員覚えている。
・お母さんと一緒に作ったケーキのレシピが100種類ある。
・地下鉄の車内アナウンスをすべて暗唱できる。

だから冒頭の「何もなんねーこと」なんてことはない。
むしろ、大人が「何もなんねーこと」と思っていることに、打ち込んだ経験は大人になってから「できるヤツ」の階段を昇れるポテンシャルがある。

内面の自分を見つめ、小さな幸せを見つけよう

「できるヤツ」を目指さなくとも、内発的な動機は小さな幸せを教えてくれる役割もある。そこでこの記事を読んでいただくみなさんにもそんな子ども時代を思い出して欲しい。
夢中になったものを掘り起こしてみてはどうだろうか。

大人になって年齢を経ると、周囲の目線や常識といったものが気になりがちである。いったんそのリミットを外してみよう。
幼いころを振り返り、好奇心に蓋をしないで開放してみよう

・ずっとやりたかったガーデニングに妻とチャレンジする。
・旧友から誘われていたマラソン大会に参加する。
・学生時代にやっていたバンドを再結成する。

もっとたくさん自分の内面からやりたいことを手繰り寄せてみたい。
そして、それに夢中になっている自分は、車内アナウンスを暗唱する少年と同じように輝いているはずだから。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。 みなさんが生き生き健康に働けるためのメッセージを発信していきます。 ぜひサポート、よろしくお願いします。