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【アメリカライド】サンアントニオでストラバアートを描いた日

テキサスでハウスシッターをしていた時、仕事と仕事の間に、4日間の何もない日があった。
テキサスで訪れたらいいところってどこ?と尋ねると、誰もが「サンアントニオ」と言っていたので、Google  Mapで自転車ルートを調べてみると、なんと、リバーサイドトレイルがあって、自転車で世界遺産巡りができるらしい。

北米のベニスとも呼ばれている、サンアントニオ。ベニスとは、なんとも甘美な響き。アメリカに、しかもテキサスにベニスがあるなんて。

今日のお話しは、どんなに美しい所なのだろうと期待を胸に訪れたサンアントニオで起きた、ライド中の間抜けな話しです。

滞在していたオースティンからサンアントニオへは、バスで1時間弱。バス停から宿泊先はUberで10分で、ダウンタウンの南の方に位置する住宅街にあった。ダウンタウンからそんなに離れていない位置にあるから、スーパーとかミニマートはすぐにあるだろうと思って予約したのだけれど、サンアントニオは小さな田舎街。
到着した頃には最寄りのミニマートはすでに閉まっていて、営業している近くのスーパーは自転車で15分先にあった。

この記事を書いている今は、だいぶ目的地にすんなり行ける(行く)ようになったのだけれど、この時は初めての場所では必ず迷子になっていた。
と言うよりも、Googleのナビの通りに進んでも、気になる道があったら好奇心に誘われるがままに進んでいって、結果、自主的に迷子になっているようなものだった。そして、迷子でいることに楽しさを感じるのだから、自分でもタチの悪いロード乗りだと認識している。

そうと自分のことを分かっているはずだから、絶対に15分で到着しないとわかっているのに、15分なら大丈夫と、根拠のない自信を持って出発した。

先にネタバラしすると、この日も迷うことになるのだけれど、この日の乗りはじめた時には、すでに迷う以上のことが起きると虫の知らせがあった。

スーパーまでの途中で、車道の左折レーンに入れず、横断歩道で信号が変わるのを待っていた。けれど、信号機が故障していて横断できず、全車が停まった一瞬のタイミングを見計らって強引に横断しようとしたら、自分のすぐ右側の車が動き出そうとしたという、危機一髪な状況があった。そこで、今日はなんだかヤバそうだぞ、と気がつけばいいのに、その土地にきたばかりの旅行者は、どうしてこうも頑固で、しかも、大きな好奇心を持っているのだろうか。

危うく車と接触しそうになったばかりにも関わらず、名もなき教会の美しさから、あの辺りはどうなっているのだろうかと好奇心が湧いてくる。その誘惑に勝てず、Googleのナビを流し聞きして放浪していたら、住宅街に差し掛かった。

ハウスシット先は、ほとんどがダウンタウンにあるコンドミニアムだった。だから、アメリカのドラマや映画に出てくるような典型的なアメリカの住宅街の雰囲気は久しぶりだった。なんと説明していいかわからないのでだけれど、ドラマによくある家の、平屋(ひらや)の家々が規則正しく立ち並んでいたのだ。
「そうそう、アメリカの住宅街ってこんな感じだよなー」と、そこに住む人たちの生活を肌から読み取ったりして、忘れていたアメリカの普通の生活を楽しんでいたのだけれど、何かがおかしい。

なぜ、犬がフェンスの外にいるのだ?

一匹を通り過ぎたと思えば、また、先にもいる。
ヨークシャーテリアのような小型犬は、たとえヒステリックに吠えて追いかけてこようとしても、可愛いと思える余裕があるのだけれど、狩猟犬が混ざった雑種の犬は、体が大きい上に足が早い。飼い犬であっても自転車嫌いな犬は多いから追いかけてくる。

気分が乗らないと競技用のシューズを履かない私は、買い物の日なんて当然競技用のシューズを履かない。
競技用のシューズを履いていないビギナーライダーが、この種の犬に追いかけられてスプリント勝負になんてなったら絶対に勝ち目がない。

ここはバイクパスもあるのだし、そもそも放し飼いなんてできないはずなのにな…、という小言を口の中にとどめ、犬が飛び出して来るのではないかと迫り立つようにうるさい心臓の音を押し殺して、忍者になったかのように気配も消して音を立てずに通り過ぎるのだけれど、あまりの放し飼い犬と自転車嫌いの犬の多さに、スーパーに着いた頃にはくたくただった。

目的地のスーパーは大好きなテキサスのローカルスーパーのHEBだったけれど、疲れ過ぎてうまく思考が働かない。とりあえず、いつもの朝食とコンブチャを購入し、出発する前にGoogleで道順を確認して、帰り道はナビ通りに進んでサクッと家について、部屋でゆっくりしようとペダルを踏み始めた。

途中、ここで曲がるような気がすると思いながらも、ナビゲーションの音がしないのでそのまま直進した。けれど、進めど進めど、「曲がれ」のナビゲーションの音がしない。

民家から離れて犬がいなさそうな所があったので、ナビゲーションの設定を確認するけれど、音声案内はONになっている。普通であれば、なぜナビが始まらないかと原因を探すのだけれど、直射日光の下ともあってまともな判断ができない。原因を追求することなく、どの道順で帰ろうかとGoogle Mapのおすすめルートを見比べ、絶望した。

選択肢は2つあったのだけれど、どちらも好ましくない。一つは、これまでもヒヤヒヤしながら通っていた道なのだけれど、この先はなんだかもっとやばそうな感じがする道(飼い犬が家から飛び出して追いかけてきそうな道か、野良犬の溜まり場になってそうな道)。もう一つは、フリーウェイを進むというものだったのだけれど、法律上、自転車はフリーウェイを走行できないはずだ。消去法で、やばそうな感じが漂う道をギリギリまで進んでいたら、フリーウェイの高架下で道が複雑に交わっていたところに到着した。

少し先に住宅街が見えるけれど、ここの高架下はまだ住宅街の手前だ。ここなら犬の心配はないだろうと、十字路の隅で道順を確認していたら、何か嫌なプレッシャーを感じるし、何か動くものが視界に入る。

いやな感じのする方向へ目を向けると、ほぼボーダーコリーの雑種犬3匹が猛ダッシュで向かってきている。

普通のボーダーコリーなら、そのまま来るのを待ってペッティングをするだろう。でも、目の前の犬は明らかに私が知っているフレンドリーなボーダーコリーではなく、狩りだ、と言わんばかりの迫力でせまってきているのだった。

人は、危険を感じると、ふと、普段は思い出さないことを急に思い出すらしい。
脳裏をよぎったのは、犬に噛まれた知人の言葉だ。

「噛み付く犬ほど吠えずに近づく」

まずい!

と、慌ててスプリントをする。

スプリントなんて、いつぶりだろうか。競技用のシューズを履いていないのに、小さなクリップペダルで全力疾走なんてしたら、滑って転倒する可能性だってある。

でも、危険な状況になった時の底力はすごいものだ。
競技用のシューズを履いていなくても、リュックの中でコンブチャが同士が音を立てていても、無意識に全力のダンシングをしていた。

犬に追いつかれる前になんとか窮地を脱したのだけれど、どこかなのかわからない寂しげなショッピングモールに到着した時、「一体、私は、こんな罰ゲームのようなライドをするためにこの地を訪れたのだろうか。」と、目頭が熱くなる。

日が傾き、辺りは完全に暗くなる準備をしていた。どの道を通ったらいいのかと調べようとスクリーンの明るさを変えようとした時、はっと我に返った。

あっ、スマホの音量がゼロだ…。

Googleナビ通りに進んでいれば、また、音声が聞こえていたら、帰りの全力スプリントはなく、もっとまともに家に帰れていただろう。

けれど、初めてストラバでナスカの地上絵のような何かを描き、そして、映画「アメリカン•フライヤー」のようにスプリントしたサンアントニオのライドは、この先もライド中に起きた忘れられない話の一つだろう。

と、とてもしょーもない話しでしたが、最後までお付き合い頂きありがとうございました。
この間抜けなライド体験が笑いを届けられてきたら幸いです。

みなさんも、ライド中に起きた笑い話などがありたしたら、コメントで共有して下さると嬉しいです。

Natsu

朝の一杯のコーヒーのように、「忙しい日常でも一息つける瞬間を」をテーマにした旅のコンテンツを提供することを目的に活動しています。良質なコンテンツ作成のため、気に入っていただけましたら、サポートいただけますと励みになります。