見出し画像

マエダハウスの怪

 3人の男たちがテキサス郊外を歩いていた。もうかれこれ3時間ほど。ジリジリと照らす太陽の熱でみんな疲れていた。

「なんでダブルブッキングなんだよ!」「知らねぇよ!俺はネットでちゃんと予約したんだから」「喧嘩すんなよ。システムのミスなんだろ。しかたないさ。しかし、俺たち以外、誰も歩いてないな。へへっ。」

 もう自嘲気味だ。ヒッチハイクしようと親指を掲げてみても、東洋人の男3人組を乗せてくれる車なんてないもんだ。もう何十台もスピードを落とさずに通り過ぎていった。バスもタクシーも通らない。

 と、黒塗りのレクサスが一度通り過ぎた先で止まり、運転手の男が車のウインドーから身を乗り出して、こちらに声をかけてきた。

「日本の方ですかー?」「あ、ええ!そうです!」「どちらまで行かれます?乗せていきますよ!」「いいんですか?助かります!」

 3人は急いで車まで走っていき、身なりを整え、運転手の男に礼を言って一人ずつ礼儀正しく乗り込んだ。

「実は私たち、音楽イベントを聴きに来たんですけど、予約していたはずのホテルにチェックインしようとしたら、ダブルブッキングで泊まれない、といわれて、泊まれるホテルを探すために歩いていたんです。」「お恥ずかしい話ですが、あんまりお金ないんで、タクシーも使いたくなくって。」「もう3時間も歩いていたんですよ。」3人は口々に状況を説明した。

「それは大変でしたね。しかし、歩いても、このあたりにはあのホテルしかないですよ。かなり遠くに大きなホテルはありますが、イベント期間中ですからそちらも満室でしょう。皆さんとお会いしたのも何かの縁ですから、私たちのグループが借りているアパートにご一緒なさいませんか?無料とはいきませんし、雑魚寝ですけど。」「それはありがたいです!雑魚寝でも構いませんよ。泊まるところなかったんですから。なぁ。」「ええ!」

 というわけで、3人はこの運転手に連れてきてもらったアパート「マエダハウス」に一晩泊めてもらった。翌朝、一人あたり100ドルを運転手のヒラカワという男に手渡した。「大変お世話になりました。この御恩は日本に帰っても忘れません。」

 ヒラカワは、3人から預かった300ドルをアパートの借主マエダに届けたが、「あの人たちはパーティーには参加していないから、宿泊費はまけておくよ。これ返してきてくれたまえ」と言って、ヒラカワに50ドルを返金した。

 ヒラカワはちょっと困った。50ドルでは3人に均等に返せない。「しかたないな。一人に10ドルずつ返そう。」そして、残りの20ドルは彼の会社に『ナカヌキ推進協議会』の手数料としていただくことにした。

 しかし、ヒラカワはここでおかしなことに気がついた。3人は一人あたり90ドルずつ払ったことになるので、全部で270ドル。ヒラカワが『ナカヌキ推進協議会』の手数料としたのが20ドル。これらを合わせても290ドルにしかならず、300ドルのうち、10ドルが行方不明なのだ!!どうしてなのだろう?ひょっとして、マエダが・・・!?


〉〉〉 この謎、解けましたか?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?