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自分を勘定に入れたものづくり

私が通っていた小学校の社会科の授業では、公害の教育に特に力を入れていた。

かつて工業都市として名を馳せていたその街では、高度経済成長期に環境破壊が急速に進行した。
その当時の情景は、湯本香樹実さんの『西日の町』や、CHAGE & ASKAの『NとLの野球帽』で描かれている。
そこには、大気や水が汚染された街の中で、家族の愛に見守られ、逞しく成長する少年たちの姿がある。

私が子どもの頃は、経済が最優先の時代を経て、環境問題が大きく取りあげられる時代へと移り変わっていた。工場からの排出物も規制がかかり、かつてドブ川だった川も回復してきていた。

そんな中、小学校の授業で、清水せいすいに生息するアメンボは、表面張力が少ない油や、牛乳、そしてそれらを洗浄するための合成洗剤が混入したら生きられないと習った。
きれいな水にするためには、身近なことでみんなで何ができるかな、という先生からの問題提起を受け、社会見学で連れられた先が、その地域の『下町ロケット』的存在である、ホンモノの安全な石けんを追求し、発信し続ける『シャボン玉石けん株式会社(敬称略)』だった。

『シャボン玉石けん』は、『健康な体ときれいな水を守る』を企業理念として掲げていて、『化学物質や合成添加物を一切含まない無添加石けん』の『製造・販売を基本に持続可能な社会(サスティナビリティ)の実現』を目指している。
その石けんを含んだ水は、短時間で生分解すると言われている。
たくさんのラインナップがある石けんの原料は、基本的に『石けん素地』のみで、『ケン化法』と呼ばれる伝統的な釜炊き製法での製造に徹底してこだわっている。
また、『シャボン玉石けん』は、石けんを食品として扱っており、製造過程では、目、音、匂い、手触りだけでなく、職人自らが舐めて味の確認も行う。

工場を見学して『シャボン玉石けん』は、食べても安全なんだ、ということに驚いた私は、その時にお土産としてもらった、『石けんハミガキ』と、浴用の『シャボン玉石けん』でさらに驚くこととなる。
歯磨きした後、すぐチョコレートを食べても、嫌な味がせず、いつものチョコレートと同じ味がしたのは奇跡のように感じたし、お風呂で身体を洗うときに泡がブクブク立たず、さっと水に溶けてなくなってしまうのも魔法のようで、何もかも、今まで当たり前と思っていたものとまったく違った。

けれど、その後の学生時代では、『シャボン玉石けん』を使うことはなく、周りの子たちと同じようなイイにおいのするシャンプーを使って過ごしていた。
後に、社会人になってから、その香料として使われているにおいは、化学物質過敏症のひとつ、香害の原因になっていることを私は知ることとなる。
香害は『シャボン玉石けん』が、徹底して取り組んでいることのひとつである。

私が『シャボン玉石けん』を日々使うようになったのは、社会人になってからだ。
実家を離れる時に、なぜか母が持たせてくれたのが、『シャボン玉石けん』の『石けんハミガキ』だった。
これが、発端となる。

私は、水の土木施設の設計を専門としている。
水質や、環境のことは専門外であるが、自身が管轄している施設周辺の水質試験や、目視調査は行わなくてはならなかった。
そこで、頻繁に目にしたのが、アオコと呼ばれる現象である。

アオコとは、ミクロキスティスというプランクトンが大量発生したもので、水面がまるで、うすみどりの絵の具を塗ったように見えるものだ。
富栄養化、つまり植物の栄養源に欠かせない窒素やリンの過剰供給と、水温・天気等の気象条件が重なって生じると言われており、対策法はいくつかあるものの、未だ根本的な問題解決に至っていない。
発生の原因のひとつに、合成洗剤があげられている。
近年では、アオコの毒性が指摘されている他、水道水のカビ臭は、アオコが原因だとも言われている。

そんな水面を、昼休みに会社の屋上で、『あの水、私も飲むんだよなぁ』、なんて思いながらぼんやりと眺めていた時、ふと、解決策は実家から持ってきた例の『シャボン玉石けん』のハミガキ粉にあるんじゃないかと感じた。

人体は、ほぼ水で構成されている。身近にある水でさえ、少しの外的要因で変調をきたすから、水が人体に与える影響は、限りなく大きい。
であれば、水に流してもよいものは全て、食品と同等かそれ以上安全なものでなければいけないはずだ、と思った。

もともと『シャボン玉石けん』は、合成洗剤の会社であった。
先代の社長(森田光德氏)は、高度経済成長期から体にできる湿疹に悩まされていた。
そんなある日、国鉄(現JR)より『合成洗剤で機関車を洗うと、どうしてもサビが出る。天然油脂で作る純度の高い石けんで試してみたい』と注文が入ったことにより、石けんを作り、試しに自身の体も洗ったところ、キレイに湿疹が治癒したことから、完全な無添加石けんへの販売に切り替えたという。

私は、社会でものづくりをする上で、大切なことのひとつは、自分も消費者のひとりとして物事を考えられるかどうかだと思う。
自分に合わないものや自分がイヤなものは、人様に提供しない、ということが、当たり前のようで、実は、会社や自分の利益を考えると、これが一番難しいことだったりする。
ところが、『シャボン玉石けん』は、売上の問題も、本当に良い商品開発も、焦らずに着々と解決に向けて進めていかれたことには、尊敬の念しかない。

私にとって一番推しの『シャボン玉石けん』の製品は、『バブルガード』というハンドソープだ。

これは、『シャボン玉石けん』が、広島大学ウイルス学研究室と共同開発したものである。
研究の結果、『肌へのやさしさそのままに、無添加の泡でウイルスをしっかり洗浄』のキャッチフレーズどおり、インフルエンザウイルスやノロウイルスへの確かな除去効果が確認されたそうだ。
数年前からの感染症の影響で、手を洗うことがかなり増えたが、これのおかげで、私の手は、全く荒れず、ハンドクリームも使わなくなった。

栄養学者のコリン・キャンベル博士は、体に異常が生じた際は、サプリメント等で補うのではなく、今までの自分の食生活を見直し、逆に減らしてゆくことが大切だ、と語っていた。
私の生活も、ものを増やすことに夢中で、取捨選択しながら考えることを忘れていたのだということを、『シャボン玉石けん』で気付かされた。

現社長の森田隼人氏は、次のように述べている。
『これからも「無添加石けん」のパイオニア企業として、地球環境と人類のために、この技術力を駆使し、合成洗剤、ニセモノの「無添加」商品を追放し、自然と調和し、生命あるものがすべて安全・安心に過ごせるための製品を作り続けます。また、そのためにより一層の情報公開と、真の「無添加」の素晴らしさについて情報発信に努力していく所存です』。

『シャボン玉石けん株式会社』の製品は、私の体を健康にしてくれているだけではなく、同じ水環境を考える者として重要なことや、人として、技術者として、あるべき姿を私に教え続けてくれている。
『シャボン玉石けん株式会社』が、これからも社会や人々が抱える問題を、解決してくださることを期待している。
そして、異分野の私も、共に問題解決に向けて、別の方向から走り続けてゆきたいと思う。

(完)


本記事を書くにあたって、以下の書籍を参考にしました。

森田隼人著『無添加を科学する ~人と自然により優しく~』(2010年10月発行)シャボン玉企画出版

その他、本文中の書籍等は、以下のとおりです。


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