【短編小説(?)】 『タイムリミット』 vol.1

突然ですが皆さん、ご自身はあと何年生きると思いますか?

周りからは「若い」と言われているけど、それは果たして「時間がたっぷりある」という事なんでしょうか。

平均寿命というものが存在しますが、決してそれはあくまで平均。「その年齢までは生きる保証」ではないのです。

もしあなたが神様から「あと1年であなたは死にます。」と言われたらどうします?

これは、もし生まれる前に誰かから、「あなたは◯歳で死にます」と言われてから生まれてくる世界があったら・・・という物語です。

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私は17歳、可もなく不可もない高2の女子です。私は生まれてくる時に誰だか知りませんが私がいつ死ぬのかを伝えられました。どうやら私は75歳で亡くなるそうです。今、日本の平均寿命は80歳をとうに超えていますので、少し若くして亡くなるんですね、ちょっと悲しいです。とは言っても、まだ私に残された時間はまだまだあると言ってもいいんじゃないですか、そうですよね?

この世界では、生まれる時に「何歳で死ぬのか」を教えられます。でも、「何月何日なのか」とか「どのように死ぬのか」とかは知らされません。誕生日の当日かもしれないし、意外と寿命の年を長い事過ごして死ぬかも知れませんね。

そんな私は今日、制服を着て、とある人の家に行きました。同じクラスだったAさんの家です。

Aさんの家に入ると、Aさんのお母さんから畳の部屋に案内されました。狭くてどこか自然の香りがする部屋の中には、仏壇とAさんの写真だけが物寂しそうに置いてありました。私はそこでお線香を立てて満面の笑みをしているAさんの写真をじっと見つめていました。

すると、Aさんのお母さんがそっと部屋に入ってきて私の隣に正座しました。お母さんは黒いワンピース姿で、胸には白いパールのネックレスをしています。お母さんは、娘は学校でどんな子だったのかと私に尋ねてきました。私は「とにかく明るい人でした」とだけ答えて、少しだけお菓子をもらってから、足早に家を出て行きました。

うん、確かにAさんは何事にも明るかった。何にでも活発でクラス委員やったり、体育祭では応援団とかもやってた。根暗な私にもたくさん話しかけてきてくれたけど、決してそこまで仲が良かった訳でもない、私とは全く違うタイプの人だった。

そんなAさんの明るさが一番出たのは、Aさんがいなくなる最後の大きなイベントとなった修学旅行だった。たまたま私はAさんと行動班が同じになったのだが、自由行動のスケジュールや遊園地のアトラクションの順番は全部Aさんが決めた。別に私は特にこれだけは外せないものなんてなかったし、他の班員も異論はなかったようなのでほぼAさんの独壇場によって手短に動きは決まったのだ。

旅行中も私は休む間も無く連れ回されて、写真を撮り、走り回り、遊びつくした。意外にもAさんのペースに私はついていく事ができた。いや多分、Aさんが体力のない私にも楽しめるようなプランを設定したのだろう。途中におやつ休憩をしたり、アトラクションも絶叫系と癒し系のバランスはちょうど良かった。

遊びつくして帰る前日、Aさんと2人でお風呂に入っている時、私はAさんに楽しい旅行をありがとうと、感謝の気持ちを伝えた。Aさんは窓から遠くを見つめながら「喜んでくれて良かった、私も楽しかったよ」とだけ言った。


窓に写るAさんの目は真っ赤だった。

その顔を忘れる事は出来なかった。私はAさんの明るい笑顔の中にある心を覗いてしまったのだ。


それからすぐの事でした、Aさんが交通事故で亡くなったのは。



Aさんの家から帰る途中、突然雨が降ってきました。嘘でしょ、向こうは晴れてるのに、、、

小走りで帰っていると、小さな交差点に出た。「あの」交差点だ。


そういえば、あの日も雨だったなあ。

そんな事を思いながら、私は空を見上げました。ちょうど晴れ間と雨雲の境目が見えています。もう少し歩けば雨雲は抜けれそうです。

その時、私の横を原付に乗った袈裟の男性が通り過ぎて行くのが見えました。

私は雨に打たれるその男性を後ろ目で見ながら、反対方向にある自分の家へと帰りました。


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