北の音り ‐ Kita no Tayori - Vol.2後藤沙希乃さん

 「北の音り -Kita no Tayori-」は、様々な方面で活躍されている北音会同窓生をご紹介し、山形県立山形北高等学校音楽科の魅力を広く知っていただくためのインタビュー記事になります。
 第2回である今回は、現在東京で活躍されている劇伴作曲・作曲家の後藤沙希乃さんにお話をお聞きしました。

 後藤さんは山形県西川町のご出身で、現在は作曲事務所に所属しながら作曲活動されております。今年の春に大学を卒業されたばかりの後藤さんですが、2021年のNHK大河ドラマ「青天を衝け」(作:大森美香/音楽:佐藤直紀)のメインテーマのピアノソロ楽譜(NHK出版)のピアノ編曲を担当されるなど、映像作曲の第一線で活躍されている作曲家です。

 そんな後藤さんから色々なお話をお伺いしました。


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〇現在のお仕事を教えてください。

 今年の春に大学を卒業し、現在は作曲事務所に所属しながら作曲活動をしております。大学を卒業した後は色々な形で作曲活動をする方がいらっしゃいますが、私は以前からなんとか事務所所属という形で作曲活動をしたいと強く思っていました。そして色々なご縁があり今の事務所に所属することができ、充実した毎日を送っています。事務所からいただいたお仕事を日々こなしつつ、コンペ(映像への楽曲募集)の情報も多く得ることができるので、それにも積極的に挑戦しています。

-「社会人1年目」ということですが、忙しい毎日を過ごされているのではないですか?-

  東京音楽大学に在学していた頃は、授業の課題などと並行して作曲活動をしましたが、今は一日の全ての時間を作曲に費やせているので、毎日忙しいですが、喜びの方が大きいですね。ただ、学生時代は「安心感」がありましたが、卒業後は毎日一つ一つの仕事の向き合い方や結果で、半年後や1年後の自分が作曲家としてどうなれているかに繋がると感じています。当たり前のことではありますが、半年後や1年後の自分が作曲家としてより進化できるよう事務所の方々からの支えをいただきながら、一つ一つの仕事に日々全力で取り組んでいます。


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後藤さんの新曲の初演時の様子


〇作曲家、そして山形北高を目指すきっかけはなんですか?

 3歳の頃から山形市内の音楽教室でエレクトーンを習っていて、ずっとエレクトーンの奏者になることを夢見ていました。しかし、中学生の時に自分でエレクトーンのオリジナルの曲を書いてみたのですが、曲を書くこと、つくることが自分の思っていた以上に楽しいと感じ、こんな自分がいたことにも驚きました。これが作曲家を志すきっかけになりました。そして作曲で音楽大学に進学するという目標もでき、「音大に入るならば北高の音楽科」という感じで、必然的に進路が決まりました。北高は作曲専攻が無いのですが、作曲家は演奏技術も大切だと思っていましたので、ピアノ専攻として入学しました。


〇高校生活の思い出を教えてください。

 今思い返すと、高校の3年間はとにかくピアノを頑張ったという意識が強いです。私は負けず嫌いな性格なので、ピアノで結果を出したいという想いで、とにかくがむしゃらに練習を頑張ったと思います。そして、ピアノの先生との出会いも大きな思い出です。私はエレクトーンの弾き方の癖がなかなか治らなかったのですが、私を担当してくださったピアノの先生は、諦めずにとにかく私と正面からぶつかってご指導いただきました。また「作曲家になるための」ピアノの演奏法や、「ベートーヴェンは何を伝えたかったのか」「音にどんな意味があるのか」といった楽譜の読み方や向き合い方など、作曲家を志す私にとことん向き合ってくださいました。それだけの想いのこもった指導なので、その分たくさん怒られましたが(笑)、ここまで私に全力でぶつかって向き合ってくれた先生は、大学も合わせてこの時のピアノの先生だけだったと思います。


〇北高での学びが現在の仕事にどのように繋がっていると感じますか?

 作曲家はつくった曲を楽譜として形にするのはもちろんですが、その際デモ音源も求められる場合が多いです。音源の演奏クオリティが低いと、どうしても曲の印象が悪くなってしまうので、北高の3年間で習得したピアノの演奏技術はとても重要だと感じています。また、合奏の授業でオーケストラを経験し、その中でヴァイオリンを担当していましたが、弦楽器の奏法などをちゃんと知っているからこそ生まれるフレーズや音があるので、その経験もとても大きかったと思います。


〇現役生にメッセージをお願いします。

 私が感じていることなのですが、今の社会は「頑張ることが全てじゃない」「柔軟に生きていく」というような流れになっているような気がします。その流れについての否定は全くしないですが、「必死に頑張る」ということは人生の中で絶対に必要なことだと思います。そして、高校の3年間、大学の4年間がその頑張る時間なのだと思います。どの業界でも「生き残ること」は本当に難しいです。そしてその世界で生き残っている人は、とにかく自分に厳しくて、とことん自分自身と向き合っている人が多いように感じています。自分と向き合うことは苦しいですし、先生からの助言を受け入れることも難しいですが、時間をかけて自分の中に取り入れて、一つ一つと向き合えば色々なことに結びついて力になっていくように感じます。なので、専攻の楽器はもちろん、副専攻の楽器や色々なことに丁寧に向き合って頑張ってほしいと思います。



〇入学を考えている中学生へメッセージをお願いします。

 「山形県立北高等学校」のすごいところは、普通科と音楽科があるところで、音楽を専門的に学んでいる人や、普通科で幅広く勉強している人など、色々な人と出会うことができると思います。私も同じクラス(音楽科)の人はもちろんですが、普通科にも友達がたくさんいました。その友達からの影響は大きかったと思います。また音楽科内でも様々な楽器を専攻している人がいるからか、それぞれ考え方も違うので、本当に多くの刺激を受けました。一言で言うと、北高の魅力は「人との出会い」だと思います。音楽が大好きで、深く学びたいという意志があれば、北高は本当に素晴らしい環境だと思います。


〇大学を卒業したばかりですが、今後どんな作曲家になりたいと考えていますか?

 私にとって音楽は人生そのものなので、これからも曲を書き続けて映像を通して音楽をたくさんの人に届けたいという想いがあります。小さい頃から身近に音楽があったからか、今も音楽が好きで好きでたまらないんです。音楽は人の心を動かしますし、ドラマや映画などでも映像を生かすことができるので、音楽が持つ可能性は本当に無限大だと思います。だから、自分の書いた音楽が映像と繋がって涙を流してくれたり感動してくれたら、こんなに嬉しいことはないです。演出や脚本、演者も含めて、より良いものをという想いで、日々どんどん変化しているため、今までの伝統はしっかりと受け継ぎつつ、自分のこの年齢でしか書けないものを書いて、新しいものを生み出し続けられるような作曲家になりたいと考えています。


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後藤沙希乃さん プロフィール

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後藤 沙希乃 (作曲家)
1998年生まれ。西川町立西川中学校、山形県立山形北高等学校音楽科、東京音楽大学作曲科映画放送音楽コース卒業。3歳よりエレクトーンを、12歳よりピアノを始め、2009年’11 ’12 ’13 ’14とヤマハエレクトーンコンクールアジア大会に出場し2012年にはアジア大会にて金賞受賞。
2021年大河ドラマ「青天を衝け」NHK出版ピアノソロ楽譜でピアノ編曲を担当。
演出:陰山泰、音楽監督:ヴァイオリニスト中西俊博が務めるK’s proコンテンポラリーダンス公演の音楽制作と演奏、ドラマ「10の秘密」「監察医朝顔 2」(CX)にてピアノ演奏指導・楽曲編曲など、多方面で活動している。

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