一期一会のお菓子

小学生の頃、2・3年の間(学年でいうと、3年生から5年生くらいだっただろうか)、茶道と華道を習っていた。といっても、この頃は、「茶道・華道」というより「お茶・お花」という雰囲気のお稽古だった。近所の公民館のような場所に、茶道と華道の資格をお持ちの先生に来ていただいて、お点前とお花の生け方を習う。
お花は先生が用意されるが、お菓子は、習っている人が当番制で用意する形。
だから、お菓子に関しては、主菓子という感じの和菓子よりも、大福だとか一般的なお饅頭などを用意する方が多かった。
その場に習いに来ている方々は、ご近所の主婦(子育てがひと段落したぐらいの年齢の方々)が多く、子供で来ていたのは私と姉の姉妹くらいだった。

私達姉妹が習うことになったのは、いきさつは覚えていないが、母に「習ってみたい?」と聞かれて、「うん」と答えたやり取りがあったような気がする。
元々、母は茶道と華道の資格を持っていたが、子供に教えられる時間も場所もなかったので、送り迎えが楽で、形式ばらない形で茶・華道を習える場所が近くにあったのでそこに行くことになったのだと思う。きちんとした生け方やお点前というよりも、行儀と心構えを習うぐらいの軽さだったように思う。

私達は小学生なので、当番の日は、母がお菓子を用意をする。母はやはり資格を持っている分、用意するお菓子も和菓子屋さんできちんとした主菓子をその都度購入していた。

記憶に残っている和菓子が、濃い緑色の楓の形をした錦玉羹(きんぎょくかん)。多分、初夏だったと思う。子供心に透明感があり、お茶の綺麗な色が生きていて、涼しげな様子が綺麗なお菓子だった。

ただ、この楓の錦玉羹は数が足りなくて、頂くことが出来なかった。
お稽古に来る人数は厳密に確定しておらず、忙しい主婦の方が来たり来なかったりということもあり、数は大体でいつも用意されていた。
足りない場合は、当番が他のお菓子をいただくことで補っていた。
今思えば、我が家が当番の日は、和菓子屋さんのきちんとした美味しいお菓子なので、出席率が高かったのかもしれない。

食べられなかった楓のお菓子をどうしても食べたくて、別の日に和菓子屋さんを訪ねてもらったが、季節のお菓子は期間が決まっていて、既にもう終了してしまっていた。結局、次の年もタイミングよく購入することは出来ずに、そのまま頂くことは無いまま、今に至る。
大人になってから何度かその和菓子屋さんを訪ねたが、既に代変わりしてしまっていたり、季節が違っていたりと、あの緑の楓の主菓子には出会えていない。

◇◇◇◇◇

もう一つは、大学生の時に茶道部のお茶会で出会ったお菓子。お茶会ということで茶道の先生を通じて、その地元の和菓子屋さんに依頼して用意してもらったものだ。
実際に指導いただく茶道の先生は大学の部活の顧問の先生ではなく、地元で茶道教室を開かれている先生だ。

茶道の主菓子でいう、きんとんにハマナスの実が入っていた。うすいベージュのような、くすんだ山吹色。
主菓子を黒文字で一口サイズに切り、口に運ぶと、うっすらと甘い小さな玉のようなものがプチっと口の中で弾けた。
ほのかに甘く、優しい味がした。

それまでハマナスという花も、その実についても知らなかったので、あとで調べてみると、海辺の砂地に咲く花で、バラ科バラ属らしい。バラと言っても、野ばらのような可憐な花だ。さらに調べると、その実はローズヒップと同じということだった。ローズヒップは生食出来ないので、きんとんに入っていた実は、何か加工(甘く煮るとか)してあったのかもしれない。

大学は実家から遠く、卒業後、再び、行ってみたことはない。
お茶の先生のお知り合いの和菓子屋さんだったこともあり、実際にはお店の名前も覚えていない。

◇◇◇◇◇

大学卒業後、実家に戻り、地元の有名な先生に茶道を習っていた。そこに出入りする和菓子屋さんも有名どころで、毎回、お稽古の度に頂くお菓子は大変美味しいものばかりだった。

けれど、その二つのお菓子は、それぞれたった一度の出会いだけれど、忘れられないお菓子なのだ。



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