闇魔導士の住処・黒の森への吊り橋|創世の竪琴・その24
『チチチチチ・・・』
次の日の朝、渚は小鳥の鳴き声で目が覚めた。
「う~~ん・・」
大きく伸びをすると渚は身支度をし始めた。未だにあれこれ考えながら。
「渚、起きてるか?」
部屋の外からイルの声がした。
「は、はい・・今行きます。」
イルとギームはもうすっかり準備ができているようだった。
渚が起きてくるのを待っていたらしい。
「おはよう。」
「おはよう、渚。」
「よう、いい天気だぜ。絶好の旅立ち日和だぞ!」
「あっ、イル、ご飯は?」
「テーブルの上にパンと干し肉がある。
俺たちはもう食べたから、全部食べてもいいぞ。
残ったら自分の袋に入れておけ。」
「はーい。」
渚はパンと干し肉を少し食べると、言われたとおり残りをくるんで自分の袋に入れる。
「さあて、行くか。」
渚はちょうどナップサックのような袋、イルはもう少し大きめのを、そしてギームは登山バッグのような大きなものにそれぞれ荷物を入れ背負った。
もちろん魔法の玉のようなアイテムはそれぞれの腰袋に入れてある。
渚は女神ディーゼのイヤリングをつけ、イルは今やグナルーシの形見となった杖を持ち、ギームは村の宝刀である大剣を背に括り付けていた。
その日の夕方、一行は予定通り黒の森の入口である吊り橋の手前に来ていた。
目の前には不気味な雰囲気の暗黒の森が広がっていた。吊り橋は風に吹かれて左右に揺れ、ギイギイと不気味な音を立てている。
「イ、イル・・・この吊り橋大丈夫なの?」
百メートル程の長さのその吊り橋は、真ん中に道板が渡してあるだけで、真下の渓谷が丸見え。遥か下のほうに川があるらしい。
この高さなら、まず、落ちたら命はないだろうことが分かる。
「イ、イル・・・・」
一歩渡りかけた渚だが、その揺れと景観に足がすくみ、動けなくなってしまった。
「大丈夫だって・・・・しょうがないな・・ほら・・」
先頭を行くイルが手を差し出した。
が、その手が渚の手を掴む前に渚は体を捕まれ、ふわっと宙に浮いた。
「えっ、えっ?」
「あんまり暴れるんじゃねーぜ。
バランスを崩すとひとたまりもねーからな!」
渚のへっぴり腰を見るに見かねてひょいと渚を抱き上げたギーム。
「ギ、ギーム・・・だ、大丈夫よ、私歩いて・・・・」
赤くなりながら慌てて下りようとする渚だったが、ギームの太い腕は既にしっかりと渚の体を抱き留めていて、彼の意思がなければそうする事は無理のようだ。
「ほらほら、暴れると落っこちるぜ!」
「きゃあ!」ギームはわざと吊り橋を揺すった。
ギームの巨体で揺すられたのでは、たまったものではない。
橋はそれまでにも増して左右に激しく揺れ、渚は恐怖に駆られギームの首にしっかりと巻きついた。
「ギ、ギーム!ガキのやる事だぞ!」
「早く行けよ、イル。もっとも、そこにずっと突っ立っていてくれてもいいがな。」
ギームをものすごい勢いで睨んだイルだったが、そうしている事がその態勢を持続させることになると気づき、仕方なく向きを変えて小走りに吊り橋を渡った。
が、イルが渡りきってもギームはのんびりと渡っていた。
「あ、ありがとう。もう大丈夫。」
渡りきってもなかなか下ろしてくれようとしないギームにしびれを切らし、渚は彼の腕から下りようともがいた。
騒いでしまった恥ずかしさとくやしさで顔だけでなく耳たぶまで真っ赤になっている。
その真っ赤な耳に銀のイヤリングが踊り、何とも言えぬ色香をかもしだしていた。
ギームはその色香に誘われ、思わず耳に口づけをした。
「!」
-バッシーーーーンッ!-
その瞬間、渚は思い切りギームの頬を叩くと、少し緩んだ彼の腕を振りほどき下へ降りる。
そして、その耳を抑え、きっとギームを睨んだ。
「今度こんなことしたら・・・・」
「丸焦げにしてやるぞっっ!」
「えっ?」
自分の台詞の後半を取られ渚はその声の主、イルの方を見た。
イルの手には火球が渦巻いている。
「じょ、冗談はよせって、イル・・・・。」
ギームは慌てた。イルの魔法の強力さは十分知っていたからだ。
「すまん、すまん。もうしないって!いやぁ・・・・あんまり渚ちゃんが色っぽかったもんだから・・・・つい・・・な、イル、やる気じゃなかったんだ。な・・な。」
ギームは頭をかきながら何度も謝り、なかなか消えなかったイルの手の火球もしばらくしてようやく消えた。
渚はそんな2人に怒りも忘れ、呆然と見ていた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?