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ゾンビの宴会|創世の竪琴・その26
翌朝、夜明けと共に起き、食事を終えると、一行はすぐ森の奥へと向かう。
うっそうと絡みつくように茂げる木々、昼間でも暗く、瘴気が立ち込めている。
草木を払い、道ならぬ道を進んで行った。
勿論時々襲ってくる猛獣も倒しながら。
「どっちに進んでんのか全く分かりゃーしねーぜ。
おい、イル、お前分かって進んでんのか?」
「・・・・・」
「ねぇ、この辺でちょっと休まない?もう足が棒みたい。」
我慢して歩き続けていた渚だったが、今の会話でどっと疲れがでてきてしまった。
「そうだな・・・・できれば夜までに塔へ行きたいんだが・・・」
「こう方向が分かんなくっちゃ仕方ねーな。
昼間のうちに休んで、夜のデーモン達の攻撃にそなえた方がいいようだぜ。」
「デ、デーモン?」
「多分夜は闇の者達が辺りを徘徊するだろうからな。
覚悟しておくべきだな。」
「ふう・・・行きは良い良い、帰りは恐い、じゃなくて帰れもしないわけね。
そうね、今のうちに休んでおいた方がいいみたいね。」
「そっ、悪あがきしても始まんねーからな。」
渚は緊張していた。
闇の者との、デーモンとの戦い。ロープレでいくと・・・非常に苦しい戦いになるはずだ。
(ゲームなら死ぬことはないけど・・・・でも、この場合・・・・)
死は現実に起こりうる事。
そしてそれは渚の身に起こっても不思議ではない。
(もし・・・もし私がここで死んだら・・・おかあさんたちは・・・学校のみんなは・・・友達は・・・)
渚の頭の中には、家族が、友人たちが、思いつく限りの場所を探し、ついには捜索願いが出て、それこそ、家出か自殺か、それとも事故や事件に巻き込まれたのかと大捜索が開始される様子が浮かんだ。
(そ・・・そんな事・・・そんな事になっちゃいけないんだ!)
3人はそれぞれ座るのに丁度いい木の古株や石を見つけ、腰をかけた。
(ヒーリングしておこう。)
そう思うと渚は女神の竪琴を出し、琴を爪弾いた。
歩いているうちに木や草でついた怪我も治り、棒のような足も軽くなった。
「その竪琴の音色を聞いていると、こう、なんだかすっごく和んだ気分になるぜ。
モンスターでさえ可愛いと思っちまうような。」
「お前、本当にギームか?」
「俺が言っちゃ悪いか?」
「別に・・・」
「女神様のやさしさが詰まってるんじゃないかな?この音色には。」
「そうだな、多分。」
「さてと・・・どっちに進めばいいんだ?イル、分かるか?」
「・・・・・」
太陽の光さえ遮っている森である。
周囲はみな同じように見え、方向など分かるはずはなかった。
が、そこに止まっているわけにもいかない、かと言って闇雲に進んでも疲労するだけ。
「そうだ!ララ、ララ、出てきて!」
「チュララ?」
彼女の肩からぴょ~んと渚の手の上に飛び乗った。
「ララ、あなた神殿でゼノーを飲み込んだでしょ?
ね、彼の気を感じる事はできないかしら?
それとも、えっと、闇の波動って言うの?強く感じるところに彼がいると思うんだけど。」
「チュララ!チュチュ!」
ララは周りを見渡していたかと思ったら、ぴくぴくっと体を震わすと、一方向をその頭を尖らせて指した。
「イルっ!分かるみたいよ!」
「ほ、ほんとかよ、おい!」
「チュララ!」
「やったぜ!さあ、出発だ!」
再び一行は森の中を歩きだした。
もう日は沈んだのだろうか、薄暗い森の中が益々暗くなってきた。
瘴気が強まってきているような感じがした。
「あれ?明かりが見える!」
渚はよく確認もせず、走りだした。
「あっ、おい、渚・・・・駄目だって!」
イルの制止も耳に入らず、光を目指し、小枝を払いのけ走り続けた。
「あ・・・・あ・・・・」
「どうした、渚?」
渚を見失わないよう、慌てて追いかけてきたイルとギームも足を止めた。
そこは、墓場だった。
渚が見つけた光は、人魂だったのである。
そして、その人魂を囲んで大勢のゾンビたちが酒盛りをしていた。
「ちょ、ちょっと・・・・・見つからないうちに引き返・・・・」
渚が一歩下がった時だった。
-ポキッ!-
小枝を踏んでしまった!
ゾンビが一斉に渚たちの方を見る。
そして立ち上がると近づき始めた。
「・・・・・ちょ、ちょっと・・・・・」
渚たちは後ずさりしながら攻撃態勢をとろうとした、ところが・・・・
「あんたたちも・・・一杯、どうだね?」
先頭を歩いて来たゾンビがにたぁと笑い、ワインの瓶と欠けたグラスを差し出してきた。
「えっ・・。あ、あの・・・・急いでいるので・・・・」
「まぁ、そう言わずに・・・それとも何か、俺の酒じゃ呑めないってのか?」
グラスを渚の顔に突きつけゾンビは少し怒ったような顔をした。
「俺たちは、気分を壊さないように気を使ってだな・・こうして、特大脱臭剤を背負ったりもしてるんだぞ。・・・それなのに・・・」
別のゾンビがすねたような顔で口を尖らせる。
「俺達が相手じゃ、汚いってのか?」
「べ、別にそうじゃないんだけど・・・」
渚は困った。どうして断ろうか思案していた。
「あのあんちゃんは呑んでいるけどな。」
1人のゾンビが渚の後ろを指している。
「えっ?」
見るとギームがなみなみとワインをついでもらい呑んでいるではないか!
「ギ、ギーム!」
「ほれほれ、おじょうちゃんも。」
ゾンビはどうあっても呑んでもらいたいようだ。
無理やり呑ませようとグラスを渚に近づけてくる。
「イ、イル・・・・・」
イルに助けてもらおうと、後ろを振り返って渚は再び驚いた。
「ギ、ギームなら分かる・・・でも・・イルまで、イルまで呑むことないでしょう!」
「えっ、・・・何か・・言ったか?」
どうやら相当強いワインらしく、イルは早くも酔いが回ってしまっているらしい。
「チュララ!」
「あっ、ララ!」
ララまでも飛びだしワイングラスの縁にとまって呑み始める。
「おっ、チビ、いける口だな!」
ゾンビもそれを見て喜んでいる。
「・・・・・・開いた口が塞がらないってのは、こういうことを言うのね。」
渚は一人で納得していた。
「な~ぎさぁ・・・お前も呑めって~、旨いぞぉ~。」
「もうっ!イルっ!」
「呑めってばぁ、ほれ!」
イルはもう完全にできあがっていた。
呑めないからと嫌がる渚に抱きつくと口移しで呑ませた。
「もうっ・・・・イルの・・・・馬鹿ぁ・・酷いわよぉ・・・・ファースト・キスだったんだからぁ・・・・酷い・・・・」
一口で酔いが回った渚は、イルに文句を言いながら、そこへ倒れるように寝込んでしまった。
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