月の満ち欠け
-------------------------------------------
『月の満ち欠け』
発行所 岩波書店
2019年10月4日 第1刷発行
2019年12月16日 第5刷発行
著者:佐藤正午
-------------------------------------------
小さい頃から、天体に興味を持っていたことから「月の満ち欠け」という題名に目が止まり、
帯にかかれた直木賞受賞作という文字を見て手に取った本。素朴な絵を見て購入を決めた。
この本は、時間や、視点がころころと変わる物語でありながら、全く違和感を感じさせない。
構成力や文章が洗練されている印象を受ける。
登場人物が昔の出来事を想起する場面では、
「それは30余年にわたる長い物語である。」
から始まり
昔の記憶がまるでリアルタイムの出来事のように語られ、その人物の人柄がようやく分かってきたところで再び現実に戻される。
そんな技法が多く使われているゆえ、
読者側は、様々な人に乗り移って時間旅行したような感覚をもたらされる。
とにかく惹きこまれる作品。
著者の力量だと感じた。
今回も面白かったため2回読んだ。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
あらすじ
『瑠璃も玻璃も照らせば光る』
〜つまらぬものの中に混じっていても
すぐれたものは光を当てれば
輝いてすぐにわかる〜
主人公の小山内は、東京駅のホームで道に迷っていた。余裕をもって到着するはずが、、腕時計は11時を差していた。
待ち合わせのカフェに着くと、彼女たちはとっくに座っていた。三角はまだ来ていないようだ。
そこには、母親と女の子がいた。
「ちゃんとした紹介もまだなのに、申し訳ありません。この子、るりです、娘の」
想像していた通り、利発そうな顔をした娘だ。
ところが、そのるりという子が
母親との会話で、いちいち挑発的なことを言ってくる。
「ほんとに絶対?小山内さん、年取ってモーロクしてるくせに、言い切れる?」
自分の家族とどら焼きを食べたか否かなんて、別にどうでもいいことじゃないか、そんなのいちいち覚えていない。
るりという名の娘に睨みつけられるように挑まれて、小山内は返す言葉をなくした。
✳︎ ✳︎ ✳︎
小山内にもむろん忘れ得ない人生の出来事はある。
小山内には妻がいた。瑠璃という娘もいた。
ある日、瑠璃が高熱を出し寝込んでしまった。
数日続いたため、大きな病院め診てもらおうと覚悟していたところ、1週間きっかりのタイミングで原因不明の熱は下がり、瑠璃は回復した。
小山内も妻も安堵した。
しかし、その日を境に、妻から瑠璃の様子がおかしいと相談されるようになる。
「なんだか高熱を出してから大人びて見えるときがある」
その時は、馬鹿なことを言ってからと気にもしなかったが、、、まさかあんなことになるなんて。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
あまりあらすじを書いてしまうと、
初読みの面白さがなくなる作品なので、
ここら辺でやめておく。
読み進めるうちに登場人物の関係性が明らかとなり、その中で主人公がこれからどのように振る舞うのか気になる作品だった。
一方、最後の終わり方は、個人的には好みではなかった。
死とは何か、生とは何か、
なんだか、いろんな登場人物が生きることをバカにしているような気がして、あっけらかんとしていて、、
こんなもやもやした感想だが、
読んだ人には、私のこのもやもやっとした感覚を分かってくれそうな気がする。