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「わかりやすい日本語」は「あたらしい日本語」なのか?

 法規書籍印刷株式会社 戦略デザイン企画室の渡辺です。

 先日、購読しているメールマガジン「Lobsterr Letter」で「1970~80年代にかけてロンドンのアフリカ系カリビアンコミュニティで生まれたマルチカルチュラル・ロンドン・イングリッシュ(MLE)という方言がブリティッシュラップやグライム音楽を通じてイギリス全土で話される英語に影響を与えている」という紹介記事を読みました。

 歴史的にみてもジャマイカの「パトワ」シンガポールの「シングリッシュ」など、いわゆるピジン言語のように異なる言語がミックスされて独自に変化していった事例はいくつか見受けられますが、これらはあくまで経済活動など実用的な用途のために発展した背景もあり、音楽のような文化を背景とした発展というのはいかにも現代らしく、おそらくまだまだこういったものが多く見られるようになるだろうなと思った次第です。

 もしかしたら自分が知らないだけで、これまでの歴史のなかでもこうした文化を背景としたピジン言語の拡大の例もあるかもしれません。もしご存じでしたらこっそり教えていただけるとうれしいです。

 さてここで突然ですが、これまでもご紹介させていただいているInDesignエクステンション「るびこ」のお話です。

page2024でご紹介させていただいたときには「今後見込まれる『やさしいことば』や『わかりやすい日本語』のコンテンツ需要のために、作業負荷の高いルビつけ作業効率化のためのご提案」というご紹介をさせていただきました。

 私たちが示す『やさしいことば』や『わかりやすい日本語』については、「NHK NEWS WEB EASY」のようなニュースサイトで使われる「小中学生や日本に住んでいる外国人向けにわかりやすいことば」であったり、昨今の自然災害であり方が見直されている「日本に住む外国人向けの避難情報・生活情報などの発信で使われることば」のようなものだと捉えています。
 もちろんこれまで私たちが制作しているような小学校低学年向けの教科書や学参書籍などもこれらに含まれてくるものであるはずです。

 これらのものを抽象化すると「おもに日本語学習の途上であったり日本語非ネイティヴの話者をターゲットとする、ルビなどが付与され、簡潔でわかりやすい表現を用いた実用性の高い日本語」といえるかと思います。
 ある意味「変容したあたらしい日本語」であるという言い方をしても過言ではないといえるかもしれません。

 これまで組版や校正校閲は、著者や編集者の方々とともに表記や用字用語の意味の変化や、「ら抜き言葉」のようなものにまで追従し、対応することが求められてきました。いってみれば組版・校正校閲は常に「あたらしい日本語」に常に追従してきたといってもいいかもしれません。

 一見イージーに感じられる『やさしいことば』や『わかりやすい日本語』での対応さえも「るびこ」を開発し、ルビつきコンテンツ制作作業の効率化を目指す必要があったように、こういった「あたらしい日本語」への追従は非常に負荷の高い、かつ難しい対応であるといえます。

 さらにSFのような話にも思えるかもしれませんが、既存の日本語の枠組みに非日本語のような言語がピジン言語のように他言語として取り込まれ、その表記ルールにおいてカナ文字ではなく取り込まれた言語の文字体系がそのまま組み込まれたりしたら?
 unicodeで定義されている「絵文字」がそのまま日本語に取り込まれ、その絵文字が指す表記内容を正しく校正校閲しなければならないとしたら?

 こういったことはこれまでの技術革新が全く想像もできない方向に進んだことを考慮しても、決してSFのような話だと片付けられなさそうにも思えます。当然LLMによる生成系AIでの対応も想像できますが、現在の組版・校正校閲レベルの対応に達するまでにはまだまだ時間がかかりそうです。

 ここまでとんでもない方向に話が展開しましたが、将来的に組版や校正校閲に関わる私たちのあり方を考えるためのヒントにもなりそうな気もしています(自分だけかもしれませんが)。

 次回の記事では、これらの話をベースとして「これから組版や校正校閲が追従すべきところ」「これからの組版・校正校閲の役割」を改めて考えてみたいと思います。

 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。