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リウマチ患者の快適な生活のために知っておくべき治療や生活の注意点や活用できる制度【#在宅医療研究会レポート(2019/11/20)】

『リウマチ患者の快適な生活のために知っておくべき、治療や生活の注意点や活用できる制度』

11月度の在宅医療研究会が江東区で開催されました。

■講演
演題 「関節リウマチと上手につきあうために」
演者:とうきょうスカイツリー駅前内科 金子俊之院⾧

リウマチ専門医・指導医であり、順天堂医院膠原病・リウマチ内科非常勤助教である金子先生は、数多くの関節リウマチ・膠原病の患者さんの治療に取り組んでいます。今回はそんな金子先生から、「リウマチとは何か」「どうすればリウマチ患者さんが快適に生活していけるのか」「活用すべき制度」などについて詳しく話して頂きました。

概要 ~膠原病とリウマチ

膠原病は、皮膚・筋・関節などの結合組織に炎症・変性が起こる慢性疾患の総称。シェーグレン症候群・SLEなどがあり、関節リウマチ(以下、リウマチ)は膠原病の中で代表的な疾患です。

膠原病では自分の免疫が自分の身体(関節など)を攻撃してしまいます。するとその主な治療は「免疫を抑えること」となり、人の身体に備わっている本来必要な機能をも落とすことにつながります。

リウマチ患者は日本で70~100万人程度いるとされ、金子先生のクリニックには現在、約500人のリウマチ患者・約100人の膠原病患者が通院しています。

関節リウマチとは ~疾患と治療の歴史~

リウマチは関節の炎症と変形をきたす疾患。金子先生曰く、リウマチとその他の関節疾患の違いは「関節が変形するか、しないか」に集約されるそう。痛みを伴う関節炎は他にもありますが、リウマチでは関節の変形が起こります。そして変形した関節は決して元には戻りません。

リウマチは、以前は変形を止める手立てがなかったために整形外科で疼痛緩和を行う程度しか治療ができなかったそう。そのため、痛み止めの治療しかできなかった高齢患者には関節変形が進んでいる患者が多いのが実情です。ですが、現在は全身疾患として内科で治療が行われており、特殊な薬を使った治療などにより関節変形の予防が進んでいます。「今後、関節の変形で辛い思いをする人はほとんどいなくなるのではないか」と金子先生は話していました。

関節リウマチの関節外症状

関節炎・関節痛が症状として代表的なリウマチですが、関節外にも症状がおこります。

<関節外症状>
・目・・・強膜炎、上強膜炎、乾性結膜炎
・口腔・・・シェーグレン症候群
・肺・・・肺線維症、胸膜炎
・心臓・・・心筋炎、心膜炎
・腎臓・・・アミロイドーシス
・手・・・レイノー症状
・皮膚・・・皮下結節

様々な症状や合併症がありますが、特に注意が必要なのは肺だそうです。疾患の進行により間質性肺炎を起こしたり、結核菌を保有する患者では治療により結核が再燃しやすくなったりすることがあるそう。

また、心筋炎・心膜炎にも注意が必要です。リウマチ患者は“リウマチ気質”といって神経質な方が多く、心臓の症状を訴えることが多いそう。このときリウマチ気質から「精神的なもの」と捉えられがちですが、実際に心機能が悪化していることもあるため、きちんと検査して見極めていく必要があります。

関節リウマチの原因・増悪因子

「リウマチは遺伝するか?と聞かれることは多いが、するかしないかで言えば“しない”ですね」と話す金子先生。遺伝要因30%・環境要因70%とされ、遺伝因子はあるものの、それ以上に発症に関わるのが後天的な環境要因だそうです。

その環境要因(増悪因子)としては「たばこ」「感染」「食べ物」「女性ホルモン」「腸内細菌」などが挙げられています。

この中で金子先生が最も高い増悪因子として強調していたのは「たばこ」。
発症の要因となり、治療の阻害要因ともなるたばこ。喫煙がリウマチ発症にかかわる抗CCP抗体を誘発させ、遺伝素因のある方の発症リスクを21倍にまで引き上げるそうです。そして発症後も喫煙を続けていると、リウマチ薬の効果が大幅に下がります。それでも、たばこをやめられない患者さんが多いのが実情だそうです。

関節リウマチの標準治療

MTX(メトトレキサート)
抗がん剤であるMTXの少量投与は、最初の治療として選択されるそうです。抗がん剤であるため副作用が多く、大量に使うと免疫力が低下し脱毛や肝機能障害が起こるため、慎重に投与していく必要があります。

生物学的製剤
こちらも副作用が多いものの、MTXに比べれば免疫力低下が緩和されるそうです。

ステロイド
痛みの緩和のために選択されます。ステロイドは副作用が多いことで知られています。副作用や感染に注意したうえで、患者の疼痛緩和のために慎重に使用していく必要があります。

関節リウマチの痛みと内服

リウマチの治療で欠かせないのは疼痛コントロール。
関節炎に苦しむリウマチ患者が一番喜ぶのは「痛みが緩和されたとき」だそうです。リウマチの治療開始から寛解までは数か月単位の時間を要することが多いですが、その間の患者の痛みによる辛さは大きな負担。そこで「まずは痛みをしっかり取ること」が大事だと金子先生は語ります。

リウマチが痛む原因は「①関節が炎症を起こしているとき」「②変形した関節を動かすとき」の2つに分かれます。

この痛みを軽減するために、痛み止めの内服やステロイドの使用が必要になってきます。

<痛み止め(ロキソニンやカロナールなど)>
・早く効く
・骨の変形は防ぐことができない
・長期の内服で消化管や腎臓に影響が出ることもある

漫然と痛み止めを使うことは消化管や肝臓への負担から避ける必要がありますが、リウマチ治療の初期には十分な痛み止めを使うことが望ましいそうです。それは「痛みを我慢すること自体がリウマチの悪化につながる」というデータがあり、痛みによる疾患の増悪を防ぐためです。

<ステロイド>
・早く効く
・骨変形抑制効果は乏しい(※ただし最近では、初期のリウマチの骨破壊抑制効果があるというデータあり)
・急な中止は副作用が強いため、始めたら徐々に減量していく必要がある

ステロイドには積極的に選択する治療法ではありませんが「まずは痛みを取って休養を」というときにやむなく使用するそうです。副作用が多いため、症状に注意しながらしっかりとフォローしていくことが大切です。

リウマチ患者の生活の場でできること

<日常生活での注意点 ~感染予防>
「リウマチ患者は免疫機能を抑えているので、とにかく免疫・感染予防が重要」と語る金子先生。医師が勧める感染防御5か条として「①外出時のマスク着用」「②帰宅後の手洗いうがい」「③良質な睡眠」「④バランスのよい食事」「⑤ストレスを感じないこと」を挙げていました。

この中の外出時のマスク着用についての注意として、「マスクにはウイルスの侵入を防ぐ効果はない」という説明がありました。マスクの効果は「気道を湿潤環境にすることによって線毛の動きを活性化し、バリア機能を高めること」にあります。マスクをつけているからと安心せず、咳やくしゃみをしている人からは離れるなどの注意をしていく必要があります。

<日常生活での注意点 ~リハビリ・日々の工夫>
リウマチのリハビリとして様々な体操やストレッチなどがありますが、大切なのは「痛いと感じたら無理をしない・やめさせる」ことだそうです。関節炎で痛みが強いときは安静にし、リハビリをするときも痛くない範囲・心地のいいところまでに抑えることが大切です。

生活の中で特にリウマチが悪化しやすいのは、関節に負荷がかかる引っ越し・大掃除。「関節は消耗品で、小さな関節ほど痛めやすい」と語る金子先生。重いものを持つときはなるべく大きな関節を使い、荷物は肩掛けカバンよりリュックサックにするなど、生活での知恵や工夫が関節を守ることにつながります。

足の外反母趾などの変形には、ヒールやゆるい靴は避け、足にフィットする靴やインソールを選択することが大切です。

また、日本の気候や生活様式はリウマチ患者の負担になります。和式トイレは様式トイレに、畳生活ではなくベッドや椅子を使用するなど、関節の負担にならない生活様式にすることでリウマチ患者の生活の負担を大幅に減らすことができます。

リウマチ患者とワクチン

ワクチンには大きく分けて「生ワクチン」と「不活化ワクチン」があります。
生ワクチンはウイルスや細菌を弱めて作られたもので“弱いけど生きている”状態のワクチンで、不活化ワクチンはウイルスや細菌の感染力を失わせた(不活化・殺菌)状態のワクチン。リウマチ患者は免疫を抑制する治療を行っているため、原則生ワクチンは投与を避ける必要があります。

金子先生が推奨する、リウマチ患者が接種すべきワクチン
① インフルエンザワクチン
② 肺炎球菌ワクチン

知っておきたい医療保険制度

リウマチの治療費は高く、1カ月4万~8万円かかる患者も少なくありません。ですが日本には難病医療費助成制度や高額療養費制度など、患者の負担を軽減する制度がいくつもあります。

<難病医療費助成制度>
シェーグレン症候群や全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病の多くは難病医療費助成制度の対象となっています。実は「関節リウマチ」はこの助成の対象外となっています。ですが、リウマチはシェーグレン症候群と合併しやすく、シェーグレン症候群で難病申請を行うことで医療費の自己負担を減らすことができます。

<身体障害者手帳の申請>
以前はリウマチ患者の多くが関節の変形をきたしていたため、障害者手帳が発行されることも多かったそうです。近年では変形の予防が進み、軽度の変形のみの患者が増えたため、身体障害者申請が通らないことがほとんどだそうです。

<高額療養費制度>
高額療養費制度は、年齢や収入に応じて医療費の上限額が定められており、上限を超える費用の負担が免除される制度です。1年のうち3回以上上限額に達した場合、4回目からの上限額が下がります。これを活用することで必要以上の医療費を負担せずに済むようになります。

これらの制度は知らずに使っていない患者さんも多いそうです。活用できる制度を知り、治療への負担を軽減していくことが大切だと金子先生は語っていました。

病名を知っている人が多い「関節リウマチ」。その原因から症状、治療、生活上での注意点、さらには療養生活に役立つ制度まで…リウマチのあらゆることが学べる凝縮された講義でした。

金子先生、ありがとうございました。

今後の開催予定

今後の予定につきましては下記リンクよりご確認ください。
医療職・介護職・福祉職の方であればどなたでもご参加いただけます。お気軽にお越しください。




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