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わかりますか?脂肪肝と脂肪肝炎の違い【#在宅医療研究会レポート(2019/1/16②)】

1月度の在宅医療研究会が開催され、二つのテーマで講演が行われました。
 
■講演①
演題「足についての豆知識~爪について なぜ爪切りが必要?~」
演者:厚生中央病院 糖尿病看護認定看護師 フットケア指導士
大久保 直樹 先生
 
■講演②
演題「脂肪肝と脂肪肝炎、その違いが分かりますか?~非アルコール性脂肪肝炎(NASH)について~」
 
演者:三宿病院 
病院長 近藤 壽郎 先生
 
※今回は講演②についてレポートさせて頂きます。

テーマは「脂肪肝と脂肪肝炎、その違いが分かりますか?~非アルコール性脂肪肝炎(NASH)について~」

登壇して頂いたのは、三宿病院で病院長を務める近藤 壽郎先生です。

沈黙の臓器・肝臓。
肝臓はウイルス性の肝炎や慢性的な肝疾患により機能低下が起こり、「肝硬変」や「肝がん」へと進行、生命に係わる状態に移行するリスクがあります。

1980年代にC型肝炎が発見され、それ以降肝硬変に進行する原因の半数以上は【C型肝炎ウイルス】、次いで多いのが【B型肝炎ウイルス】とされてきました。それが近年、予防や治療の進歩により、肝炎ウイルスの新規感染患者の減少・進行の抑制がすすみ、ウイルス性肝炎から肝硬変に移行する患者は減少してきています。

非アルコール性脂肪肝炎~NASH(ナッシュ)~

そんな中、注目されているのが【非アルコール性脂肪肝炎~NASH(ナッシュ)~】の存在。
 
脂肪肝炎に対し、いわゆる【脂肪肝】とは、肝臓全体に中性脂肪を主とする脂肪が沈着した状態で【単純性脂肪肝】などと呼ばれています。この【脂肪肝】の段階であれば原因となった原疾患の治療や生活習慣の是正により改善する可能性がありますが、進行すると脂肪肝→肝繊維化→肝炎(脂肪肝炎)→肝硬変と進行し、改善が困難な状況へ移行していきます。
肝臓に脂肪を沈着させる作用があるアルコール。昔から「飲みすぎ=アルコール性肝障害(アルコール性肝炎)」は病名として知られていました。
 
しかし近年では、過剰な飲酒の習慣もなくウイルス性肝炎でもない人にも起こる肝障害として、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の患者が増加してきています。アルコールを主因としない脂肪肝は総称して【非アルコール性脂肪肝疾~NAFLD(ナッフルド)~】と呼ばれ、そこから肝臓の炎症や繊維化が続くものがNASHと診断されます。NAFLDからNASHへ進行する患者の割合はNAFLD患者のうち3~5%程度といわれています。
 
NASHの要因には薬剤性・自己免疫疾患などがありますが、主な誘因とされているのは肥満・糖尿病・高脂血症といった生活習慣病。肝臓への慢性的な脂肪の蓄積・脂肪細胞の肥大、肝炎の瘢痕として残る繊維の沈着などが不可逆的な肝機能低下を起こし、肝繊維化・肝硬変・肝がんの要因となります。実際、NASH患者のうち20~30%が10年間のうちに肝硬変・肝細胞がんへと進行するという報告があるそうです。

NASHは現在、肝生検(細胞の採取)をしないと診断が難しく、治療法も確立されていません。そのため進行状態の判断が難しく、肝硬変など深刻な状態になってから「実はNASHだったのでは?」とあとから推測されることもあるそう。診断された場合には【肝繊維化の進行抑制】を目標とし、治療は【生活習慣病の改善】を基盤とし、メタボリックシンドロームに対する薬物療法や抗酸化療法などを行っていきます。

「昔は脂肪肝は、いつまで経っても脂肪肝で悪さしないと言われていた。脂肪肝と診断が出ても治療の対象ではなかった」と話す近藤先生。ですが近年の日本人の生活習慣の変化に伴い、脂肪肝から脂肪肝炎、そして悪化の一途をたどる患者は増加しているようです。
 
アルコール性肝炎も非アルコール性脂肪肝炎(NASH)も、主な原因となるのは生活習慣。
「食べすぎ」「飲みすぎ」に運動不足などの不摂生な生活を積み重ねていくことが、あらゆる生活習慣病、そして肝機能低下にも結び付いていきます。
 
講義後の質疑応答では、
【脂肪肝だった患者さんが、翌年の人間ドッグで29kgの減量に成功していた。脂肪肝をはじめとしたあらゆる異常所見がなくなった】という事例が近藤先生から紹介されていました。
 
その患者さんは血圧・コレステロール・中性脂肪・尿酸値などあらゆる数値が改善し、脂肪肝の所見が消えたそうです。29kg減量というと極端かもしれませんが「脂肪肝と気づいた時点で生活を改めれば、脂肪肝炎への進行予防・健康状態の改善ができる」という可能性をこの事例は示してくれています。
 
「自分ももしかして、脂肪肝やNASH?」と思わずドキッとした方もいらっしゃったのではないでしょうか?
脂肪肝・脂肪肝炎、NASH。これらの疾患から健康を守るためには、普段から生活習慣や健康状態に目を向け、健康の維持・増進につとめることが肝心・・・そんなことを実感させてくれる講義でした。
 
近藤先生、ありがとうございました。


●今後の開催予定

今後の予定につきましては下記リンクよりご確認ください。
医療職・介護職・福祉職の方であればどなたでもご参加いただけます。お気軽にお越しください。


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