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決意の先にある色とりどりの幸せ—――『小さな結婚式 小さくても、大きな感動の物語』を読んで


ほほえみを浮かべながらほっと息をつき、ハンカチで目もとの涙を丁寧にぬぐう新婦。その隣でそっと胸をなでおろし、安堵の表情で新婦を見守る新郎――。

結婚式の直後、チャペルの扉の外にて。幸せな情景だ。

わたしは婚礼司会者として、このシーンに少なくとも500回は立ち会ってきた。ありがたいことに、これは”いつもの”光景である。

だが、わたしと、わたし以上にウェディングプランナーは知っている。

この時の新郎新婦の感動は、彼らが結婚式に対し大いなる「決意」を経て、ようやくこの日を迎えることが出来たからこそ生まれるものだということを。

そして、その決意は、その感動は・・・一つとして同じものが存在しないのだ―――。


色とりどりの結婚式のカタチ

この本には、ウェディングプランナーの視点で、10の結婚式のエピソードが綴られている。

それらを読み進めながら、わたしは今までにかかわった挙式の数々を思い出さずにはいられなかった。

***

わたしが司会者として「小さな結婚式」に携わるようになったのは、今から6年ほど前のことである。

「人前結婚式」とは、宗教や形式にとらわれない自由なスタイルの結婚式だ。そう聞いてはいたものの、わたしの想像をはるかに超える”結婚式のカタチ”に遭遇するたびに、思考がフリーズしたものだ。

とはいえ、わたしはプロの司会者として会場に呼ばれている。ウェディングプランナーから「新郎新婦がどんな想いで結婚式をするのか」「どんな雰囲気で進行してほしいのか」など、短い時間で申し送りを受けてリハーサルに臨む。

チャペルにて晴れ姿の新郎新婦と対面すると、一瞬にして祝福のスイッチが入る。と同時に「発見」の花吹雪が、心の中で舞う。

「妊婦さんが着られるドレスってこんなにあるんだ!?」

「お手紙を読むのは新婦だけではないのね!?」

「新郎新婦でお互いにお手紙を読み合うのも素敵!」

「お子さんが主役のお式は、家族の絆に感動する!」

「二度目、三度目のご結婚・・・強い決心が伝わってくる!」

「ペットだって、ぬいぐるみだって家族。愛が詰まっている!」

「お互いがドレス着用での結婚式って、なんて華やかなんだろう!」etc.

これは、結婚式(もっと言えば、結婚や人生そのもの)に対するわたしの固定観念が大きく覆される瞬間だ。

そしてわたしは、お二人のちょっとした言動や振る舞いから、彼らの笑顔の背景にあるそれぞれの「事情」を察する。この日までの道のりは、当然、人それぞれ異なる。それも決して順調なものばかりではないだろう――。

カラフルだな、と感じる。

そのストーリーの全てが美しく、愛おしい。

こうして、カップルの数だけ結婚式の”カタチ”が生まれるのだ。

***

リハーサルを終え、いよいよ本番だ。


幸せは、その決意の先に

迎賓――。

ドレスアップしたゲストの皆さまが着席される。ワクワクしながらカメラを構える新郎新婦のご友人や職場のお仲間、一方で、緊張の面持ちで静かに開式を待つご両家の親御様やご親族。

プランナーから合図をもらい、わたしはアナウンスを入れる。

皆の視線がチャペルの扉に集まり、ドアオープン。

入場――。

***

ところで、「バージンロード」の意味合いをご存じだろうか?

バージンロードのスタート地点つまりチャペルの扉は、新婦の「誕生」を意味する。

そこから祭壇へまっすぐにのびるバージンロードは、今まで新婦が歩んできた人生を表している。赤ちゃんから少女へ、思春期を経て大人へ・・・

一歩、また一歩と進んだ先で新郎に出会い、愛を誓う祭壇「現在」に行き着くのだ。

先述したとおり、結婚式や家族のカタチは一つとして同じものはない。それは、その人の人生そのものが一つ一つ異なるからだ。

お父様にエスコートされた新婦は、ご自身の人生を振り返りながらゆっくりと歩みを進める。やがて新郎の元へたどり着くと、お父様から新郎へとエスコートがバトンタッチされる。

歯を食いしばり涙をこらえるお父様、真剣な眼差しで新婦の手を受け取る新郎――。

わたしは祭壇の横でその光景を見守る。そしてつくづく思う。結婚式はそれぞれの「決意」の場なのだな、と。決意に満ちた新郎新婦や親御様の姿に、胸が、目頭が、熱くなる。


大きな感動のはじまりは

価値観が多様化する今、結婚式を挙げないカップルが多くいることも知っている。

もちろん、わたしは結婚式を「挙げない」という決断も尊重する。

けれど、もしその理由が
・準備に多くの時間とお金がかかるから
・思い描く結婚式のカタチがマイノリティだから
など、既存の結婚式への思い込みから生まれているのだとしたら、ぜひ、この本を読んで希望をもっていただきたい。

あなたの力になりたい、と思っている婚礼スタッフはたくさんいるからだ。

童話『おおきなかぶ』を思い出してほしい。

おじいさんが育てた大きなかぶ。一人では抜けないので、おばあさんを呼ぶ。まだ抜けずに孫が加わる。それでも抜けずに、犬が、猫が、ネズミが協力すると・・・!!!

無事に収穫したかぶを見て、おじいさんはもちろん、協力した皆が大喜びをする。

***

わたしは司会者として、毎回どんな新郎新婦や結婚式とご縁をいただけるかと想像しては心が躍る。おそらくその気持ちは、カメラマンやヘアメイクアーティストなど結婚式にかかわるスタッフ皆の共通のものではないだろうか。

そしてなんといっても、全国の小さな結婚式には、アイディアと行動力を兼ね備えたウェディングプランナーが待っている。

わたしたち婚礼スタッフにとって、多様性を受け入れることは、可能性を広げることなのだ。

大きな感動のはじまりは『おおきなかぶ』の物語と同じように、あなたの最初の一歩にある。

*** *** ***

結婚式が結びとなり、新郎新婦が出発する。

祭壇からチャペル後方の扉に向かうバージンロードの意味は、「未来」だ。未来の光に照らされた新郎新婦の晴れやかな笑顔がまぶしい。

お二人は扉の前で深く一礼をして、ドアの外へ。
そして、冒頭のシーンへと続く・・・

安堵と同時に誇らしげな表情を見せてくれるお二人。

彼らを前にして思う。

色やカタチは皆それぞれ違えど、幸せは、感動は、、、
その決意の先に等しくある。

決意するあなたへ、幸多かれ―――




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