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なぜ子どもは「かわいい」のか?

保育士になってから、それまで順調に子育てをしているとばかり思っていた友人・知人から、子育ての悩みを打ち明けられることが増えました。

通わせている保育園への疑問や保育士との接し方、子どものイヤイヤ期について等内容はまちまちですが、一番根が深いと感じたのは『子どもをかわいく思えないことがある』という悩みでした。


『育児が大変』より『子どもがかわいくない』ことの方が辛い

専業主婦で二人の子どもを育てている友人で、夫はハードワークでほぼワンオペ、上の子は年中で落ち着いている一方、2歳半の下の子がイヤイヤが強く、朝から晩までママを独占できないとずっと泣き叫び、未だに夜泣きもあり生まれてからずっと睡眠不足、自分の時間はもちろん上の子のお世話や家事も大変な労力がかかってしまう、とのことでした。

泣き声を耳元で聞きながらもう10㎏を越えた下の子をひたすら抱っこしながら家事をやっていると、時折『邪魔』『いい加減にして』という気持ちが大きくなり、その度『子どもをかわいく思えないなんて』と、自己嫌悪に陥ってしまっていました

彼女の悩みを聞いていると、『子育てが大変なこと』そのものより、『子どもをかわいく思えないこと』の方が重大で、まるで自分が倫理的に大きな問題のあるとして感じてしまうと語っていました。

前置きが長くなりましたが、果たして、『子どもがかわいい』ことは母親にとって当然なのでしょうか?

1.なぜ子どもは「かわいい」のか?

人間を始めとする哺乳類は、生まれてすぐは一人立ちできず、母親の乳から栄養を得て、親の庇護のもとに育ちます。
この期間の子どもと親の関係について、リチャード・ドーキンスは「利己的な遺伝子」の「世代間の争い」という章で次のように述べています。

赤ん坊がほほえんでいる様子は、母親にとっては報酬である。子どもは、ほほえみを利用して親を操作することによって、公正な分配以上の保護投資を親から引き出そうとするだろう。

利己的な遺伝子

章タイトルが「世代間の争い」とある通り、親と子どもは遺伝子を半分共有するものの、親は子どもへの保護投資を通じ、子どもの繁殖確率を増加させること、また子どもは親からの投資を最大化させることを目的とし、お互いに駆け引きをしている、との前提に立っています。

子どものかわいい表情や仕草は母親にとって食べ物を得ることと同等の「報酬」であり、泣き声は子どもが空腹であることのサインとして母親に受け止められる、子どもが持つ「心理的武器」です。

親が子どもをかわいいと感じるのは、母親が倫理的に好ましい性質を持っているからではなく、生物としての戦略であると言えます。

では、子どもをかわいいと思えないのは、この母親としての本能が欠落しているからなのでしょうか?
もちろん、そうではありません。

2.「かわいい」だけでは乗り越えられない壁

①夜泣き

胎児は母親のお腹の中では夜行性で、母親が眠っているときに起きているそうです。
このため、生まれてからもしばらく夜に覚醒し、上手く眠れず夜泣きすることがあります。
子どもにとっては理由がある夜泣きですが、眠ければ眠いほどパニックのように泣き叫ぶこともあり、付き合う親にとっては眠くて泣くこと自体が理解できず、更に睡眠不足も加わると怒りや苛立ちの感情を感じやすくなります。

②ワンオペ育児

以前の記事「働いていなくても保育園に預けていいと思う4つの理由」でも取り上げましたが、NHKスペシャル「ママたちが非常事態!?」によると、人類は狩猟採集の時代は何人かの母親や年長の子どもが共同で子育てを担っていたそうです。
人間の脳はこの狩猟採集の時代に適応しているため、現代社会のようなマンションの一室で母親が一人で子育てを担うことに強いストレスや孤独感を感じる、とありました。

子育てが辛く、子どもをかわいいと思うことができないのは、そもそも現代の子育ての形態に脳が適応していないからであって、個人の倫理観や性質によるものではない、ということです。

③今の子どものありのままで満足できないという本能

これも以前の記事「子どものありのままを受け止められないのはなぜか」で触れましたが、人間の脳は決して現状に満足せず、何かが叶えばまた次の何かを達成したいという感情を生み出し、私たちを行動させようとするそうです。

この世に生まれてくれることだけが望みだったはずなのに、生まれると今度はおっぱいをちゃんと飲んでくれるか、いつ歩けるようになるか、他の子と比べて言葉は遅くないか、等々、次々と新たな願望が生まれ、「生まれてくれただけで満足」とはなりません


3.まとめ

子どもをかわいいと感じるのも、夜泣きのせいで親が眠れないのも、ワンオペ育児がびっくりするくらい孤独で辛いのも、育児が上手くいかないことばかりでイライラしてしまうのも、全部私たちの脳がより有利な形で遺伝子を残すために作り出した感情によるもので、何一つ私たちが自分の意思で選択したものではありません。

ましてや、『子どもをかわいく思えない』ことがその人の倫理的欠陥を示すわけでもありません。

私たちは自分の感情をコントロールすることはできませんが、「脳が感情によって私を動かそうとしている」と考えると、少し気が楽にならないでしょうか。

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