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「不適切な保育」を防ぐガイドラインをわかりやすく解説!

2022年末より多くの園で「不適切な保育」が報道されるようになりました。この事態を受け、こども家庭庁は2023年5月に不適切な保育を防ぐためのガイドライン(保育所等保育所等における虐待等の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン)を公表しました。

今回はこのガイドラインをわかりやすく解説していきます。保育園関係者はもちろん、保護者においてもお子さんを通わせている園がきちんと取り組みをしているのかチェックできるようになります。

ぜひご覧ください。

園長コマツ
とある私立認可保育所の園長です。 子どもや保護者、職員みんなが活き活きと暮らせる保育園へ向けて悩みながら改革中。 自分の取り組みや学びをNoteを通して発信します。 プライベートでは二児の父。 好物はハンバーグ。


「不適切な保育」から「虐待等と疑われる事案」に名称変更。

今回のガイドライン策定にあたり、「不適切な保育」から「虐待等と疑われる事案」に名称が変更しました。

「なんで、そんなにややこしい事を…」

そう思う方もいるでしょう。

しかし、この名称変更の理由を把握することで、ガイドラインをより正しく理解することができます。名称が変更になった背景や理由をわかりやすく解説します。しっかり理解しておきましょう。


名称が変更になった背景は…定義が曖昧だったため。

令和4年12月に保育所における「不適切な保育」が相次いで報告されました。この事態に国は「不適切な保育」について、全国の保育所に対して一斉調査をおこないました。

しかし、「不適切な保育」の定義が曖昧なままの調査がおこなわれてしまったのです。それにより、少しでも気になる対応を「不適切な保育」と認定する保育園もあれば、「虐待」と同じように厳格に捉える保育園も、でてしまいました。

結果的に「多くの件数を挙げた保育園」と「0件の保育園」と、差がでてしまう調査内容になってしまったのです。

調査に回答するために、「定義をしっかり教えてください」と問い合わせる園も多かったようです。

また「不適切な保育」がちゃんと定義されていないと、次のような弊害が出てしまいます。

  • 保育現場で「自分の行為が虐待になるのでは?」と心配になり、保育が萎縮してしまう。

  • 自治体で本来取るべき対応が遅れてしまう。

こういった問題から、ちゃんと「不適切な保育」の定義をしよう!ということになりました。


「虐待等」と「不適切な保育」、それぞれの立ち位置をハッキリさせた。

「不適切な保育」の定義が曖昧になってしまう理由は「虐待」との線引きがハッキリしていなかったためです。

不適切な保育のニュースに対しても「それって虐待なんじゃないの?」という声もありましたからね…。

まずはそれぞれの定義を確認してみましょう。

「虐待等」の定義

「児童福祉施設の職員は、入所中の児童に対し、法第三十三条の十各号に掲げる行為その他当該児童の心身に有害な影響を与える行為をしてはならない」

児童福祉施設の設備及び運営に関する基準

これが保育士が虐待等をおこなってはいけない根拠です。虐待等は大きく4つの種類に分類されます。それが以下の通りです。

①身体的虐待…保育所等に通うこどもの身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。

  1. 身体的虐待…保育所等に通うこどもの身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。

  2. 性的虐待…保育所等に通うこどもにわいせつな行為をすること又は保育所等に通うこどもに対してわいせつな行為をさせること。

  3. ネグレクト…保育所等に通うこどもの心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、当該保育所等に通う他のこどもによる①②又は④までに掲げる行為の放置、その他の保育所等の職員としての業務を著しく怠けること。

  4. 心理的虐待…保育所等に通うこどもに対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の保育所等に通うこどもに著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。

この4つの種類に分類されないものでも「こどもの心身に有害な影響を与える行為」と判断されたものは虐待となります。

身体的虐待…首を絞める、殴る、蹴る、叩く、投げ落とす、激しく揺さぶる、熱湯をかける、布団蒸しにする、溺れさせる、逆さ吊りにする、異物を飲ませる、ご飯を押し込む、食事を与えない、戸外に閉め出す、縄などにより身体的に拘束するなどの外傷を生じさせるおそれのある行為及び意図的にこどもを病気にさせる行為。打撲傷、あざ(内出血)、骨折、頭蓋内出血などの頭部外傷、内臓損傷、刺傷など外見的に明らかな傷害を生じさせる行為 など

性的虐待…下着のままで放置する、必要の無い場面で裸や下着の状態にする、こどもの性器を触るまたはこどもに性器を触らせる性的行為(教唆を含む)、性器を見せる、本人の前でわいせつな言葉を発する、又は会話する。性的な話を強要する(無理やり聞かせる、無理やり話させる)、こどもへの性交、性的暴行、性的行為の強要・教唆を行う、 ポルノグラフィ

ネグレクト…こどもの健康・安全への配慮を怠っているなど。例えば、体調を崩しているこどもに必要な看護等を行わない、こどもを故意に車の中に放置するなど。こどもにとって必要な情緒的欲求に応えていない(愛情遮断など)。おむつを替えない、汚れている服を替えないなど長時間ひどく不潔なままにするなど。泣き続けるこどもに長時間関わらず放置する。視線を合わせ、声をかけ、抱き上げるなどのコミュニケーションをとらず保育を行う。適切な食事を与えない。 別室などに閉じ込める、部屋の外に締め出す。虐待等を行う他の保育士・保育教諭などの第三者、他のこどもによる身体的虐待や性的虐待、心理的虐待を放置する。他の職員等がこどもに対し不適切な指導を行っている状況を放置する。 その他職務上の義務を著しく怠ること など

心理的虐待…ことばや態度による脅かし、脅迫を行うなど。他のこどもとは著しく差別的な扱いをする。 こどもを無視したり、拒否的な態度を示したりするなど。 こどもの心を傷つけることを繰り返し言うなど(例えば、日常的にからかう、「バカ」「あほ」など侮蔑的なことを言う、こどもの失敗を執拗に責めるなど)。 こどもの自尊心を傷つけるような言動を行うなど(例えば、食べこぼしなどを嘲笑する、「どうしてこんなことができないの」などと言う、こどもの大切にしているものを乱暴に扱う、壊す、捨てるなど)。 他のこどもと接触させないなどの孤立的な扱いを行う。感情のままに、大声で指示したり、叱責したりする など。

これらは「被措置児童等虐待対応ガイドライン」や「障害者福祉施設等における障害者虐待の防止と対応の手引き」を参考に作成されたようです。


これまでの「不適切な保育」の定義と名称変更の理由

これまでの「不適切な保育」の定義は以下のようにされていました。

保育所での保育士等による子どもへの関わりについて、保育所保育指針に示す子どもの人権・人格の尊重の観点に照らし、改善を要すると判断される行為

この定義をもとに、5つの行為を具体的な類型として挙げられており、それに該当するものが「不適切な保育」とされてきました。

  1. 子ども一人一人の人格を尊重しない関わり

  2. 物事を強要するような関わり・脅迫的な言葉がけ

  3. 罰を与える・乱暴な関わり

  4. 子ども一人一人の育ちや家庭環境への配慮に欠ける関わり

  5. 差別的な関わり

もともと「不適切な保育」という言葉は使用されてきませんでした。
厚生労働省が調査をするにあたり、「不適切な保育」の定義や行為類型を作成しました。その際に、全国保育士会「保育所・認定こども園等における人権擁護のためのセルフチェックリスト~「子どもを尊重する保育」のために~」(以下「保育士会チェックリスト」)を参考に作成されたのです。

保育士会チェックリストの「人権擁護の観点から「『良くない』と考えられるかかわりの5つのカテゴリー」がそのまま「不適切な保育」の行為類型に当てはめられたのです。

しかし、保育士会チェックリストの目的はあくまで「保育士の質向上」にあります。そのため、行為類型の具体例が必ずしも「不適切な保育」に該当しないケースもあります。

例えば、以下のような項目があります。

いつもぎりぎりの時間にお迎えにくる保護者に「いつもぎりぎりですね」と言ったり、保護者が提出物を忘れた際に「いつも忘れて困ります」と言ったりする。

保育士会チェックリスト
望ましくない行為ですが、直接子どもへの「不適切な保育」とは言えないかもしれないですね。

こうしたことから、新しくガイドラインが作成されるにあたり、「不適切な保育」の位置づけが見直され「虐待等と疑われる事案」と名称も変更になったのです。


「虐待等と疑われる事案」の位置づけ

以上のことから、不適切な保育というあいまいな言葉を使用するのではなく、新しいガイドラインから「虐待等と疑われる事案」という名称で使用されることになりました。この用語は以下のように整理されました。

保育所等における虐待等の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン

「こどもの人権擁護の観点から望ましくないと考えられるかかわり」「虐待等と疑われる事案(いわゆる「不適切な保育)」「虐待等」「虐待」とそれぞれの立ち位置が決まりました。

「不適切な保育」改め、「虐待等と疑われる事案」は、最悪のケースである「虐待」や「虐待等」に繋がるおそれのあるもの、と位置づけられています。この段階に進んでしまう前の「虐待等と疑われる事案」や「こどもの人権擁護の観点から望ましくないと考えられるかかわり」の段階で、未然に防ぐ対策が求められてきます。

今回のガイドラインでは「虐待等と疑われる事案」や「こどもの人権擁護の観点から望ましくないと考えられるかかわり」についての具体例は明示されませんでした。
今後、議論を深めて、改訂されるさいに明示されるかもしれません。


保育所等における対応

保育所等における対応の大前提として、以下の文章が強調されていました。

保育所等はこどもの最善の利益を第一に考慮し、こども一人一人にとって心身ともに健やかに育つために最もふさわしい生活の場であることが求められる。

保育所等における虐待等の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン

保育所におけるもっとも重要な大前提ですね。

今回のガイドラインでは、保育園の虐待における対応として、5つの段階があることが示されました。

  1. より良い保育に向けた日々の保育実践の振り返り等

  2. 虐待等に該当するかどうかの確認

  3. 市町村等への相談

  4. 市町村等の指導等を踏まえた対応

  5. さらにより良い保育を目指す

それぞれ解説していきます。


(1)より良い保育に向けた日々の保育実践の振り返り等

「虐待等と疑われる事案」を未然に防ぐためには、以下の二点が保育所に求められるとのこです。

  • 各職員や施設単位で、日々の保育実践における振り返りを行うこと

  • 職員一人一人がこどもの人権・人格を尊重する意識を共有すること

各職員や施設単位で、日々の保育実践における振り返りを行うこと
これまでの「虐待等と疑われる事案」の中には、本人は親しみを持ったつもりでも、次第にエスカレートしていき……「虐待等」に繋がってしまったケースが多々ありました。そのような行為は、保育を振り返る中で職員同士で伝え合ったり、指摘し合うことで、エスカレートする前に改善される事が最も望ましいです。「振り返る時間を確保すること」「指摘し合える関係性」、この2つを保育園の中で「改善の流れ」として定着させる取り組みが必要になります。

具体的なポイントとして以下の点が挙げられています。

保育実践における振り返りのポイント
・常に「こどもにとってどうなのか」という視点から考えていくこと。
・自らのかかわりや施設の保育が「こどもの人権への配慮」や「一人一人の人格を尊重」したものとなっているかを振り返る際には、チェックリスト等を活用すること。
・「望ましくない」と考えられるかかわりをしていた場合もしていなかった場合も、個々の振り返りや職員間のミーティング等における対話を通じて保育の実践をとらえなおし、保育の専門職としてさらなる保育の質の向上を目指すこと
・日々の保育に不安等があれば、巡回支援の場面などで、積極的に市町村等に相談を行う等、市町村等とのコミュニケーションを密にしていくこと。

保育所等における虐待等の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン

このような振り返りをおこなうためにも、以下のように記載されています。

保育所等の施設長・園長など管理責任者におかれては、こうした機会の確保、組織内で相談がしやすい職場環境づくり等の対応が求められる。

保育所等における虐待等の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン

園長や主任、ミドルリーダー等はこのような組織作りをすることが求められているのですね。


職員一人一人がこどもの人権・人格を尊重する意識を共有すること

「虐待等と疑われる事案」を防ぐためには、改めて施設長・園長及びリーダー層から、職員一人ひとりまで、こどもの人権・人格を尊重する保育や、それに抵触する接し方等について共通で認識をしておく必要があります。そのための取り組みとして、具体的に以下のような取り組みをおこなうことを推奨しています。

・こどもの人権・人格を尊重する保育についての教育・研修を行うこと。
・日々の保育について、定期的に振り返りを行い、こどもに対する接し方が適切であったか、より望ましい対応はあったのか等、保育士・保育教諭同士で率直に話すことができる場を設けること。
・施設内の研修等にとどまらず、「保育所における自己評価ガイドライン」を活用し、自己評価を行うこと。
・第三者評価や公開保育、地域の合同研修等の活用を通じて、日々の保育について施設外部からより多様な視点を得ながら、保育士・保育教諭の気づきを促すこと。

保育所等における虐待等の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン

振り返りの重要性について、これでもかとばかりに、繰り返し強調されています。


(2)虐待等に該当するかどうかの確認

「(1)より良い保育に向けた日々の保育実践の振り返り等」をおこなっても、こどもの人権擁護の観点から「望ましくない」と考えられるかかわりの改善が見られない場合や、虐待等に該当するのではないかと疑われるような事案が見つかってしまった場合、次の段階へ進みます。

会議の場で確認したり、「保育所等における虐待等の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン」の事例と照らし合わせて、保育所として事実の確認をおこなう必要があります。園内でその行為に虐待等が疑われる事案なのか、判断に迷った場合などは、積極的に市区町村の窓口を利用することが推奨されています。


(3)市町村等への相談

仮に「虐待等と疑われる事案」が園内で確認された場合、市町村もしくは都道府県に設置された、行政の相談窓口に報告する必要があります。この際に、強調されている点が「嘘をつかない」「隠さない」です。

そんなことは当たり前……とつい思ってしまいそうですが。

「不適切な保育」が大きく話題になった、静岡県裾野市の保育士暴行事件で、園長の対応として「保育士の行為を外部に言わないこと」と、誓約書を書かせた…という事がわかり、大きな波紋を呼びました。

これを受けて、今回のガイドラインの中でも以下のように書かれています。

誠実な対応は、管理者等が日頃から行うべきことであり、こどもや保護者への適切なケアを含め、そのような対応が早期に行われないことは、改善の機会を遅らせ、こどもに対して大きな不利益を与え続けることになる。

保育所等における虐待等の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン

園長及び、管理者・リーダー層をはじめとした、全職員が「子どもの最善の利益」を考え、行動することが求められます。


(4)市町村等の指導等を踏まえた対応

保育所から市町村等に報告をすると、その事案が虐待等と判断されたかどうかに関わらず、同じようなことが繰り返されないよう、改善計画を作成し、保育所全体で改善に取り組むことが求められます。

その際に、気を付けたいポイントは4つあります。

改善に向けて4つのポイント
(1)個別の事案だけに焦点を当てた改善の検討を行うのではなく、その背景にある原因を理解した上で、保育所等の組織全体として改善するための方法を市町村等とともに探ること。

(2)虐待等と疑われる事案(不適切な保育)が確認された場合、施設長・園長・法人本部等が中心となり、改善に向けた行動計画を策定し、保育所等全体で改善に取り組むこと。

(3)市町村等において虐待等と判断された場合、その対象となったこどものみならず、その他の保育所等を利用するこども、虐待等に関わっていない職員も含め、十分な心のケアを行うこと。

(4)虐待等が行われた経緯や今後の保育所等としての対応方針等について、保育所等を利用するこどもの保護者に対して、丁寧に説明し、理解を得ること。

保育所等における虐待等の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン

(5)さらにより良い保育を目指す

虐待がおきてしまった場合でも、未然に防げた場合でも、振り返りや研修をおこないながら、よりよい保育をおこなっていく努力が必要となります。

この部分はガイドライン上でもさらっとしか記述はありませんでした。


市町村、都道府県における対応

ここからは市町村など行政における対応です。不適切と疑われる事案が起きないに越したことはありませんが、もし起きてしまった場合に備え、市町村の対応も知っておくと安心できるかもしれません。
市町村や都道府県における対応は以下の通りです。

市町村、都道府県における対応
(1)未然防止に向けた相談・支援、より良い保育に向けた助言等
(2)保育所等からの相談や通報を受けた場合
(3)事実確認、立入調査
(4)虐待等と判断した場合
(5)フォローアップ

保育所等における虐待等の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン

(1)未然防止に向けた相談・支援、より良い保育に向けた助言等

市町村、都道府県において、虐待等を未然に防ぐための取り組みとしては、以下の事項が記載されています。

・巡回支援によって、より良い保育の認識を保育現場と確認・共有し、各施設の振り返りを支援。
・質の高い保育を実施するための、言等を行う幼児教育アドバイザーとの連携。
・虐待等と疑われる事案(不適切な保育)の対応窓口として、相談窓口やコールセンターを設置。
・専用の対応窓口を設けない場合にも、相談を受け付ける担当部署の連絡先の周知。
・施設長、園長やリーダー層に、職場環境の改善の検討となるきっかけ作り(研修、対話の場を設ける機会など)。

「虐待等を疑われる事案」は保育所を通さず、直接行政に連絡がいく場合も想定されます。日ごろからの連携が大切なのですね。


(2)保育所等からの相談や通報を受けた場合

行政が保育所等から「虐待等と疑われる事案」に関して、通報を受けた場合、担当部局等において迅速に対応方針を協議し、方針を定めることが必要とされています。その際に、優先して決めるのは「初動対応」「初動対応のための緊急性の判断」です。

初動対応

初動対応ですること
・こどもや保育士・保育教諭等の状況に関する更なる事実確認の方法や関係機関への連絡・情報提供依頼等に関する今後の対応方針。
・行政職員の役割分担。
・事実確認の日時。
・事実確認の結果を受けて会議の開催日時。

これらをおこなうポイントとして以下の2点が挙げられています。

  • 個人ではなく、担当部局管理職や事案を担当することとなる者などによって組織的に行うこと。

  • 事前に、責任者やメンバー、各々の具体的な役割を明確化しておくこと。


初動対応のための緊急性の判断

初動対応のための緊急性の判断
①受付記録の作成(場合によっては詳細な受付記録の作成前)。
②担当部局の管理職(又はそれに準ずる者)等に相談。
③担当部局として判断。

緊急性の判断のポイントとして、次の2点が挙げられています。

  • 緊急性の判断の際には保育士・保育教諭等の職員への支援の視点も意識しつつ、こどもの安全確保が最優先であること。

  • 情報が不足する等から緊急性の程度を判断できない場合には、こどもの安全が確認できるまで、さらに調査を進めること。


緊急性の判断後の対応

緊急性が判断されたあとは、それぞれ以下のような対応となります。

緊急性が高い場合…保育所等に通うこどもの生命や身体に重大な危険が生じるおそれがあると判断した場合、虐待等を受けたとされるこどもの安全を目視により確認する。

緊急性が低い場合…その後の調査方針と担当者を決定し、遅滞なく計画的に事実関係の確認と指導・助言を行う。その際、調査項目と情報収集する対象機関を明らかにして職員間で分担しておく。

緊急性に関わらず必ずおこなう内容…決定内容を会議録に記録し、速やかに責任者の確認を受けて保存。 指導監督権限を有する都道府県に対しても迅速に情報共有。

対応が進み、立ち入り検査が必要、と判断された場合には次に進みます。


(3)事実確認、立入調査

担当部署間で協議の結果、立ち入り調査が必要と判断された場合には、立ち入り調査が入ります。立ち入り調査では、相談者や保育所の関係者から事情を丁寧に聞き取り、事実関係を正確に把握することが求められます。

また、虐待は保育の一連の流れから発生することから、聞き取りには園長経験者など、保育に詳しい人物も立ち会うことが想定されています。この立ち入り調査で「虐待等に該当しない場合」は次のような対応がされます。

虐待等に該当しない場合の対応
・引き続き注視が必要な施設として、当該施設の状況等を担当部署内都道府県に情報共有すること。
・巡回支援などの機会を増やし、必要な相談、支援等を行うこと。
・指導監査の場面で特にフォローすること。

虐待等と判断された場合の対応は次の項目で解説します。


(4)虐待等と判断した場合

虐待と判断された場合には、こども家庭庁、都道府県、市区町村など、こどもにまつわる行政部分に周知されます。また、事例によっては全国的に公表されていく可能性もあります。これは単に保育所への制裁の意味ではなく、事例を共有し、対策を練るためです。各自治体でも、情報を共有し、同じような事例が起きないか、対策を取っていくようになります。

虐待等をしてしまった保育士については、都道府県と市区町村の協議の結果、保育士資格の取り消しの可能性があります。そのほかにも行政の対応として、当該園児だけではなく、その他の保育所を利用する園児や、保護者などへのフォロー、虐待に参加していない職員…など周囲の環境へのケアも必要になります。

虐待の事例を共有するには…当該園児の保護者の承認が必要になります。そこも十分配慮するようガイドラインに記載されています。

最後にフォローアップの部分を見ていきましょう。


(5)フォローアップ

最後に行政から、「虐待等」をおこしてしまった保育所にはどのようにフォローアップをすればよいのか、記載されています。ポイントとしては、以下の通りです。

フォローアップの際のチェックポイント
・個別の事案だけを改善するのではなく、その背景にある原因を理解した上で、保育所等の組織全体としての改善を図るための指示を行うこと。

・保育所等が策定する改善計画の立案を支援・指導するとともに、その実現に向けた取組に対する助言・指導を継続的に行うこと。

あくまで個人の責任というわけではなく、指導を十分におこなえなかった組織にも責任は生じます。そのために、保育所等が健全に業務を全うできるよう、指導や助言が入ります。指導や助言は色々ありますが、具体的には以下の通りです。

  • 他の施設等で保育を経験した立場からの助言

  • 他の保育所等の取組等を知る立場からの助言や、具体的ケースの共有

  • 保育所等の組織マネジメントに関する助言・指導

  • 保育士・保育教諭等の職員への研修や指導に関する助言・指導

虐待等がおこなわれてしまう背景には、個人の問題だけではなく、組織としての在り方に問題があるケースもあります。「なぜ、虐待等がおこなわれてしまったのか?」という問題には共通の正解はなく、その保育所ごとに対策を考えていく必要があります。他施設やほかの保育園からのアドバイスの項目があるのは、「自分たちのやり方が絶対正しい」と思いこむことが、虐待等と疑われる事案に繋がってしまうおそれがあるからですね。

ガイドラインは最後に、このような文章で締めくくられています。

虐待等が行われた保育所等に対し、継続的な支援を市町村及び都道府県が実施することは重要であるが、虐待等が行われた場合に限らず、日頃から保育所等と市町村及び都道府県が密にコミュニケーションを取りつつ、虐待等の未然防止や保育の質の向上に取り組んでいくことが望ましい。

保育所等における虐待等の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン

不適切な保育を防ぐための関連書籍・リンク集

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言葉かけから見直す「不適切な保育」脱却のススメ:保育者の意識改革と園としての取り組み

言葉かけから見直す「不適切な保育」脱却のススメ:保育者の意識改革と園としての取り組み 菊地奈津美 (著), 河合清美 (著)/ 中央法規出版

長らく保護者支援にも携わってきた河合清美先生と、Youtubeを始め様々なメディアを通して保育の発信をしている菊地奈津美先生の著書です。具体的な事例をもとに不適切な保育を防ぐための取り組みを紹介しています現役の保育園長が執筆しているだけに、かなり保育の内容も具体的なので参考になります。園長・主任・保育士……すべてのひとが一度は読んでおきたい、オススメの書籍です。


事例とワークで考える こどもの権利を大切にする保育: 不適切な保育等を予防・解決する園づくり

事例とワークで考える こどもの権利を大切にする保育: 不適切な保育等を予防・解決する園づくり 関山浩司 (著)/中央法規出版

社会保険労務士法人こどものそら舎の代表である関山浩司さんの書籍です。関山さんは保育士のキャリアアップ研修の書籍も出しており、マネジメント分野ではかなりの知識量を持った方です。
園内研修等ですぐに使えるワークの実例もついています。園全体の問題として職員全体で不適切な保育を防ぎたい、と考えているかたにはオススメの1冊です。


子どもの権利条約ハンドブック

子どもの権利条約ハンドブック 木附 千晶 (著), 福田 雅章 (著), DCI日本=子どもの権利のための国連NGO (監修)

不適切な保育を防ぐためには、職員がこどもの権利について知識を学ぶことが大切です。ただ、「権利」という言葉が出てるだけで……勉強するにも敬遠されがちになってしまいます。しかし、この本はそんな方にこそオススメです。子どもの権利について、わかりやすく、心に響く言葉がたくさん載っています。
子どもの権利を学びたい人への、最初の1冊として超オススメの書籍です。

私の園はこの本を全職員に配り、保護者貸出用の図書としても置いてあります。


リンク集

育所等における虐待等の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン
「不適切な保育」の調査結果をもとに作成された最新のガイドラインです。
この記事はこのガイドラインをもとに作成されています。

昨年来の保育所等における不適切事案を踏まえた今後の対策について
こども家庭庁が2023年5月12日に発表した資料です。ガイドラインの他に、法改正や保育士の負担軽減策などの、対策が発表されています。

保育所・認定こども園等における ~「子どもを尊重する保育」のために~
全国保育士会が公表している子どもの権利を尊重するためのセルフチェックリストです。日々の保育の振り返りをチェックでき、チェックがつかない部分の改善策も提示してあります。

みんなで考えたい保育事例 💛💛 ハート ファイル ~~児童虐待・不適切な対応について自身を振り返るために~ 制 作 京都府保育士会 指導助言 山川宏和 (京都華頂大学准教授)
京都府保育士会が取りまとめをした、不適切な対応の事例集です。
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