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B | チューリッヒ人になる方法A to Z

これは、2年半のチューリッヒ生活を通して見つけ出した面白おかしく、ときに皮肉ったチューリッヒ人のあれこれを、アルファベット順で紹介する連載です。このガイドラインを辿れば、あなたもチューリッヒ人の一員になれるかも? どうぞお楽しみください!


B is for...

Bump into Your Acquaintances Randomly
知り合いにばったりと遭遇せよ


この日のこの時間に、まさにこの瞬間、この場所で、好意を持っているあの人にばったり遭遇 ー このような鉢合わせは、まるで典型的なラブコメディのあらすじのよう。それでも大都会で育った若いころのわたしであったら、「なんという偶然!」と瞳孔がハートになり、奇跡的な運命であるに違いないとときめいたことでしょう。

ところがこの「赤い糸で結ばれている」想いは、チューリッヒに引っ越してから魔力を失ってしまう。それは、たとえ好きな人や、友人、クライアント、さらには今朝たまたま見かけた見知らぬ他人であっても、「ばったり遭遇」はこの街によく起きることだからなのです。毎日オフィスで上司と顔を合わせるのと同じように、当たり前なようです。

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この現象は、人生でこれほど頻繁に起きたことはない。ある時Bar Basso(バー・バッソ)で夕食を楽しんでいたところ、親友の一人がパートナーとカウンターでおしゃべりしているところを見かけたことがあれば、別日、夫とEscher-Wyss-Platz(エッシェル・ヴィース・プラッツ)からLangstrasse(ラング・シュトラッセ)へ向かって歩いていたら、たったの20分で、彼の元同僚に4回も遭遇した。極めつけは、外向的な友達がチューリッヒ市内を案内してくれた時のこと。なんと、10人の彼女の友人たちと鉢合わせたのです。もちろんこれはわたしに見せびらかすためのヤラセや、フラッシュモブであったわけではありません。

知り合いに「ばったり遭遇」というのは、チューリッヒではどうやら普通のようで、チューリッヒ人たちもこれと言って珍しいことではないと認識している。わたしの驚きとは裏腹に、彼らが知り合いに出くわすと、比較的落ち着いた様子で「Hoi!」と言い、ちょっとした小話をする程度のリアクションしかしません。決して運命的なこととは思わず、まるで日常茶飯事の出来事のように振る舞うのです。

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ここでちょっと気になったので、チューリッヒで知り合いに遭遇する確率はどれほど高いのかを、簡単に計算してみました。

心理学者・Richard Wiseman(リチャード・ワイズマン)によると、人間は300人、名前のわかる知り合いがいるそうだ。知り合いが全員チューリッヒ在住というの少々非現実的なので、このうち200人がチューリッヒ人であるとしよう。チューリッヒの人口は434,436人(2019年10月時点)なので、市民の0.046%が自分の知り合いであるということになります。
この街の面積は91.8㎢。となれば、人口密度は4,732.4183人/㎢。ここで、 Langstrasseの始まり地点・Limmatplatz(リマット・プラッツ)から1km離れたHelvetiaplatz(ヘルヴェティア・プラッツ)を歩くとしよう。「チューリッヒ州の法律上、歩道の幅は2.5m以上と定められている」というデータをもとに、通りの両サイドにある歩道の幅は合計5mと仮定できる。となれば1km×5mの歩道上には、おおよそ23.66人存在することに。結論として、チューリッヒ市街で知り合いに遭遇する確率は1.08%と算出されます。

もちろんこの計算は統計的な証拠があるわけではありません。事実、元風俗街だったこの通り上には確実に23人以上歩いているし、知り合いと100日に1度しか鉢合わせないという偶然は経験上少ないと感じます。ここでチューリッヒ人は、どうやって算出された確率を捻じ曲げているのでしょうか?

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個人的な見解として、チューリッヒ人が出かけるエリアがHardstrasse(ハード・シュトラッセ)から東、Rämistrasse(レミ・シュトラッセ)までの間内だと限られており、また繰り返し同じスポットに行く傾向があるからではないかと思います。チューリッヒは世界の大都市と比較すれば、レストランやカフェの数が少ないので、チューリッヒ人が行きつけのスポットばかりに出かけるようであれば、ばったり遭遇する確率が自動的に上がる。またチューリッヒが小さな街であることも大きな要因であり、チューリッヒ人も鉢合わせることがいかに簡単なのかを重々理解しているようです。

信じていた「運命の赤い糸」のファンタジーがアルプス山脈に消え去ったとはいえ、いまだに誰かと遭遇すると想像通りのリアクションをしてしまうわたし ー 見開いた目、大きな声とともに、友達をハグするために両手をめいいっぱい広げてしまいます。今後は、計算した低確率のことを忘れ、ドラマチックな反応をするのをやめるべきかも。その代わり、自然な笑顔とともに「Hoi!」と言ってみることとしよう ー チューリッヒ人と同じようにね。

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この連載は、自身のブログ『Hoi, Arisa』上でも掲載中。


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