ウー、うまい! 高峰秀子

女優、高峰秀子の毎日の食事にまつわるエッセイ。

「いやもう、うるさいのなんのって、夫の趣味嗜好を覚え込むまで、たっぷり三年はがとこは振りまわされた。」というくらい好き嫌いが多い夫と、美味しいもの好きの高峰さん。
そんな二人のお腹を満たすための工夫や試行錯誤が書かれている。

しかし、この夫というのがなんともカチンとくる。
大根おろしはよくて煮物は駄目で、蒲鉾はいいがさつま揚げは駄目、山芋は千切りならいいがすりおろしは気持ち悪い、といった調子。
勿論、それを考慮して料理するのは高峰さん。
「夫よ、そこまでこだわれるなら自分でせぇよ!」と言いたくなるが、それは令和を生きる私の意見。
この頃はそういう時代よなぁと思いを馳せる。
カチンとくると言いながらも、この思いを馳せる瞬間が読書の何よりの楽しみでもある。
なんとか想像を働かせ、私もその時代の女性になってみるのはとても楽しい。
当時の夫婦の関係性だけでなく、高度経済成長期に差し掛かった頃の、人々の生活や感覚の変化も知ることができて面白い。

それにしても、どうしてこうも昔の人の文章は格好いいのだろう。
これが粋というものなのか。
不満なこと、行き詰まること、情けないこと、全部カラッと笑って時にはサクッと諦める。
うじうじしていたって仕方がない、さっさと先に進みましょう、という姿勢に私は心から憧れる。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?