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映画日記その301 「土を喰らう十二ヵ月」

作家のツトム(沢田研二)は、長野の古民家で愛犬といっしょの一人と一匹の暮らしをしていた。山で採れた山菜、畑で育てた野菜を自ら料理する自給自足の生活。そんな四季折々の自然を感じながら、原稿を執筆していた。そんなツトムのもとに、担当編集者で恋人の真知子(松たか子)がときどき東京から訪れる。そしてツトムの作る旬の食材を使った精進料理を、二人でいっしょに食べる時間は格別だった。
水上勉のエッセイ「土を喰う日々 わが精進十二ヵ月」などを原案に描くヒューマンドラマ。

本作は鑑賞する人を選ぶだろう。現役の若い世代の人には、全くをもって退屈な映画かもしれない。しかしリタイア、セミリタイア、また現役でも日々ストレスにさいなまれ、セミリタイアに憧れる人にはたまらない一本だろう。そして現在、セミリタイア生活を送っているボクには、あるべき姿のひとつを映像化したような作品だ。

セミリタイアに対する憧れというのは、つまりは現代のストレス社会からの開放であり、ストレスフリーへの願望にほかならない。ツトムの生活は、まさにそのストレス社会から一線をかくした生活だ。

起きたい時間に起きる。山を歩き、季節の山菜やきのこを採る。畑をたがやし、採れたての旬の野菜を食する。アルプス山脈をながめながら、書を読み筆をとる。まるでその場だけ時間が止まったかのように、ツトムの生活はたんたんと流れる。

そんなツトムはある日、自分用の骨壷の制作中に心筋梗塞で倒れる。九死に一生を得たツトムは、その時をさかいに、リタイア生活の最終形に入るのだ。なかなかお墓におさめることができず、ずっと手元に置いていた亡き妻の遺骨を湖にまく。いっしょに住むことを決意した真知子に、同居をことわる。毎晩寝るまえに、お世話になった人たちにお別れのことばをとなえる。

「みなさん、さようなら」

ツトムは、誰もが恐れる「死」をも受け入れたのだ。もちろん「死」が怖いのは変わらない。しかし、誰にでも必ずやって来る「死」を受け入れて、自分の心の中で消化することによって、少しでも穏やかに「死」をむかえられるとツトムは考えたのでは。

若いころの人生は足し算だ。しかし年を重ねるとどこかの地点から引き算に変わる。本作で描かれているツトムの生き方は、川に水が流れるように、おのれの環境に逆らうことなく、まさに引き算を繰り返した結果であり、人生のあるべき姿のひとつの最終形ではなかろうか。心に残るとても素晴らしい作品だ。

〜おまけ〜

本作には、土井善晴先生監修の数々の精進料理が登場する。美味しそうなそれらの精進料理を見ていて、ボクはひとつ気になったことがある。大豆などの植物性タンパク質は、人間にとって大事な栄養素である動物性タンパク質を、ちゃんとおぎなうことができるのだろうか。

肉好きのボクとしては、鑑賞中それが気になったのだが、まあそんなことは本作にはまったく関係ないこと。ボクなら定期的に山をおりて、スーパーへ行って肉だけは確保する。精進料理の精神に反するけど…💦

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